レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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12章:眩しさ

9 懺悔

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 忘れていた。というよりは、覚えていなかった。それでも、ほんの少しだけ、記憶の片隅に、清水さんとの、思い出は残っていたらしい。
 彼女と一緒にいるとき、懐かしい感じがしたのは、そのためだった。
 それ以上に、驚いたのは、清水さんと私は、血が繋がった、親戚関係だったという事…。
 「私は、貴女に謝らなければなりません。」
 そう言うと、清水さんは、椅子から降り、床に手を突き、頭を下げた。
 「ちょっと、清水さん!」
 「貴女の事は、ずっと知っていました。今まで、どんな仕打ちを、受けて来たのかも。どんな、日々を過ごしてきたのかも…。
 それでも、私は何もできずに、居ました。他の親戚たち同様、私は、そのことから、目を背けて来ました。
 謝っても、許されないことだとは、思っていますが、謝らせて下さい……。」
 清水さんは、床に頭が付くほど、頭を深々と下げた。最後の方は、涙声に変わっていた。
 そこまで、私の事を想い、罪悪感に苛まれ、長い間、苦しんでいた。
 許すも何も、それだけで、十分だった。

 両親と妹以外、直接的な親族は居ないと思っていた。
 だから、友達や知人以外で、頼れる人は居なかった。
 だけど、私が生まれた時から、祖父以外に、私の事を、忘れないでいてくれていた、人が居た。それだけで、十分すぎた。
 「清水さん、頭を上げて下さい…。私も、怒っているわけでもないですので、許すも何もないですよ…。
 それに、私は、今日まで、どうにかこうにか、生きてこれたので、良いじゃないですか…。」
 私は、何とかそう言葉を絞りだし、清水さんに、頭を上げさせ、椅子に座らせた。
 「一昨日…。」
 清水さんが、また、ぽつりぽつりと話し始めた。
 「貴女と会った時、雰囲気と呼ばれていた名前から、『若しや』と思った。
 でも、確証がなくて、中々話しかけられなかった。
 だから、次の日、それを確認したくて、『コラボ企画』利用して、貴女を私のテントに呼んだの。
 そこで、それがチラッとだけど、見えてしまった。」
 私の右腕を、指で示した。私は咄嗟に、腕を摩った。
 「そういう仕草をしなければいけない程、周りの目を、気にしてきたんでしょ…。
 まだ、幼かった、貴女に、そんなトラウマを植え付けさせて尚、誰も助けに行けなかった…。
 ずっと、それが心残りで…。」
 「私は…。」
 今までの記憶にある限りの思い出が、頭の中で、巡っていた。
 もちろん、辛い時の感情が断然多いのだが、最近は、それを上書きするように、楽しいことも増えていた。
 だからこそ、彼女に、言わなければならないことがあった。
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