レトロな事件簿

11章 虚しさ

15 勝利

　新庄さんのスパイクは、相手リベロの腕を弾き、コート後方に飛ばされて行った。
　そして、試合終了のホイッスルが鳴った。
　
　「勝った…。」
　思わずそう声が漏れた。それと同時に、高揚感に包まれた。久々に味わった、その感覚は、過去一番の物だった。
　「勝ったー！」
　寧々が大声を上げ、隣に居た彩と抱き合っていた。
　観客の私たちですら、この喜び様なのだから、コート上に居る彼女らは、どれ程の物になるだろうか…。


　久々に足が、くたくただった。配達業をやり始めた頃もこんな感じだった…。
　試合には、慣れているが、勝敗が決まったこの瞬間は、どうしても、慣れない…。
　安堵と疲労が一気に押し寄せ、もう、一歩も動けそうにない…。
　かと言って、このまま砂の上に寝そべっていては、何かと邪魔になるだろう…。
　「大丈夫ですか？新庄さん。」
　この声は、真由美ちゃんだ。この試合の中で、一番の活躍をしてくれたのは、彼女に違いない…。
　それだけは、労わなければならない。
　「ありがとう。さっきの一言、惚れたよ…。」
　「別に口説いたつもりはありませんが…。勝ててよかったです。」
　そう微笑んだ、直後、コートの端から、黄色い声と共に、香織ちゃん達が近付いてきた。
　上半身だけ起こし、彼女らに揉みくちゃにされている、光景を目に焼き付けた…。
　「やっぱり、ただ勝つんじゃなくて、こういうのがあるから、良いね…。」
　「まったくだ…。」
　独り言のつもりだったが、彰君がそれに便乗してくれた…。
　「新庄さん、凄かったです！」
　彩ちゃんが群衆の間をかき分け、やって来た。
　「ありがとう…。」
　そう私が答えた瞬間、目の前に、140サイズの発泡スチロールの箱が落ちて来た。
　「約束の物です。」
　どこからか現れたジンさんが、そう言った。
　そう、私が勝たなければならなくなったのは、これが、欲しかったから…。
　「本当に貰って良いんですか！」
　「約束だからな…。」
　少し悔しそうな顔をしたのを、私は見逃さない…。
　「何ですか、その箱。」
　香織ちゃんの一言で、皆が箱に注目し始めた。
　皆の期待に応え、箱の蓋を開けた。
　中に居たのは、大小様々な貝たちだった。高級な物もある為、総額え言えば、3万はくだらない、貝の詰め合わせだった。
　「し、新庄さん、貝お好きですか？」
　「そうなの。焼いても美味しいし、煮ても干しても美味いい…。」
　そう考えただけで、急にお腹が空いてきた…。
　「彰君！七輪で焼きたいから、早く帰るよ！」
　そう言って、彼を無理矢理立たせ、テントに向かった。