レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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11章 虚しさ

13 正直

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 残り二本。それさえ取れば、この試合は終わる。順調に行けば、5分もなく終わる。
 ただ、この『バレーボール』と言う、スポーツは、そんな簡単なものではない。
 数ある試合の中で、それは、嫌という程理解していた。
 だから、最後の最後まで、気を抜くことは、出来ない。ほんの僅かな、隙が生まれるその時まで、力は温存しておかなければならない…。
 過去一番と言っていいほど、私の身体は、集中していた。ボールに反応しているというよりは、反射に近い速度で、動けている。あとは、体力が最後まで持ってくれるか、どうか…。
 実際、今倒れても可笑しくない程、足回りは、フラフラしていた。それでも、立っていられるのは、この状況だからこそではない…。負けられない。それだけが、心身を安定させている。
 正直、今にでも投げ出して、辞めてやりたいくらいだ…。
 だから、なるべく、最短で決めるために、足の爪先まで、神経を張り巡らせ、次のチャンスを待つことにする…。
 
 新庄さんの集中力とセンスは、周りのそれとは、比べるのすら烏滸がましい程だった。
 それとは裏腹に、麻由美は、意外にも冷静な顔つきだった。
 ボールも目で終えている様だ…。ただ、少し違和感を覚えたのは、先ほどまで気にしていなかった右肘を、しきりに摩っていた。
 痛み出したのだろうか…。早く試合が終わってくれることを願う…。
 そして、そのターン、ラリーが数回続いた後、失点を許してしまった。
 誰かのミスというわけではなかった。

 そして、サーブ権は、相手に周り、流れは嫌な方向へと、完全に変わってしまった。
 ラリーは続かなくなり、連続失点を受け、アッという間に、点差は無くなり、9ー9まで、追いつかれた。
 デュースに持ち込まれれば、勝ち目は遠退く一方だ…。
 何とか、このターン、取って貰いたい…。
 そう願い、ボールの行方を、目で追った。

 何度目かのラリーので、相手方にボールが、渡った時だった。
 麻由美が肘に着けていた、サポーターを外し、ポケットに仕舞った。
 それに気が付いたのは、彩もだった。
 まさか…。その予感が、頭を過ぎり、目を見開いた。
 相手のタイミングがズレ、スパイクの打ち込みが、少し甘くなった。
 当然、それを拾ったのは、彰さんだ。そのボールが、新庄さんの手に渡り、麻由美に向けて、トスされた。
 そして、振りかぶったを、鞭の様にしならせ、ボールを打った。
 勢いよく放たれたボールは、相手コートラインギリギリ内側に落ち、こちらに加点された。
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