レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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11章 虚しさ

9 好物

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 新庄明音。彼女には、二つのある体質があった。
 一つ目は、立ち上がりが、異常なまでに遅いのだ。
 全中の準決勝時、彼女のエンジンがかかり切っておらず、無駄に体力を消耗してしまい、メンバーチェンジを余儀なくされた。
 回復したころには、既に遅く、その試合は、残念ながら、落としてしまった。
 三位決定戦の時は、何とか試合時間まで、身体を温められた為、最終切り札として投入され、危なげなく勝利できた。
 ただ、それは、体力が満タンだった為、絶好調で戦えた。
 今回は違う。体力なんて、殆ど空に近い。だから、100%のパフォーマンスは、不可能だ。
 それでも、それに賭けたのは、決して投げやりになった訳では無い。
 むしろ、この状況こそ、彼女のもう一つの体質が本領を発揮するであろう…。
 
 「ジンさん、さっき何て言ったんですか?」
 「さぁな…。時に香織さん、お前の好きな食べ物って何だ?」
 「へ?」
 私より先に食いついたのは、彩だった。
 「急にナンパしだして、どうしたんですか?」
 「ナンパじゃねぇよ…。ちょっとした興味だ。ちなみに俺は、焼き魚。」
 好きな食べ物と問われると、少々困る…。ない訳ではなく、多いのだ。
 まぁ、極端に絞れば、炒飯、洋菓子、アンパン、卵料理、パスタ…。
 こんなところだ…。この中から、一番と言われると、少し迷う…。
 「…。」
 「そこまで悩む内容だったの!」
 私が顎に手を置き、考えていると、寧々が声を荒げた。
 「そんなもの、最初に頭に思い付いたもので良いんだけど…。ちなみに私は、カレーうどん。」
 「そうなると、炒飯かな?」
 「私は、甘いものなら何でも。」
 最後に彩が答えた。こんなことを聞いて、何になるというのか…。
 疑問に思いつつ、藤吉先生の話を聞いた。
 「食べ物で、その人の性格が分かったりするらしい。
 例えば、遠野の様に、甘いものが好きなら、お人好しだったり、甘えたがりだったり…。
 カレーが好きなら、明るかったり、リーダーシップがあったり…。
 必ずとは行かないが、近いものがあるらしい。」
 心理テストと言われれば、何となく理解できる。確かに、彩は、お人好しな場面がよく見られるし、寧々は、そもそも明るい。
 「あれ?炒飯は?」
 「炒飯は、意外すぎだ。」
 よくわからないが、何故か悔しかった…。
 「明音さんの好きな食べ物って、知ってるかい?」
 新庄さんと、そんな話をしたことが無いため、知らない…。
 一緒に食事したことだって、殆ど…。いや、印象深い時が、一度だけあった。
 寧々のバイト先に行ったとき、たまたま、居合わせた。その時は確か、辛い麻婆豆腐を食べていた…。
 もしかすると…。
 「麻婆豆腐ですか?」
 「普通、辛い方でしょう!」
 寧々の鋭い突っ込みが、入った…。
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