レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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10章 争い

8 安定

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 コートに着くと、既に試合が始まっていた。
ルールとしては、11点制の3セットマッチでデュースあり。ローテーションやポジション替え等は、チームの自由。その他のルールは、普通のバレーボールと同じ。
 現在は、3‐2で麻由美たちがリードしている。
 前衛は麻由美と彰さん、後衛に新庄さんで、固定化されている様だった。
 相手側から飛んできたボールを新庄さんが拾い、麻由美がそれを上げ、彰さんが相手側に打ち返す。
 案の定といえば、申し訳ないが、それがこのチームのベストといった所だろう…。
 何故、私がこれ程バレーに詳しいかというと、麻由美の所為である…。
 高校の体育の授業は、担当教師が放任主義だったため、体育館から出なければ、何をしていても良いという、夢の様な時間だった。
 麻由美とつるんでいた私は、半ば強制的に、バレーをやらされていた。
 その甲斐あって、当時は運動音痴だった私も、今ではサーブやレシーブ、トス等は人並みにできる様には成った。
 
 「接戦だね。」
 彩の呟きに、私たちは頷くしかなかった。
 圧巻だった。相手チームは青組の運動神経良さそうな、男性三人。
 彼らが放つスパイクやサーブは速度も威力も迫力がある…。
 圧巻なのはそこではなく、足が取られる砂の上だというのに、後衛にたった一人で陣取り、剛速球に反応し、的確に麻由美の居るところに打ち返している、新庄さんの方だ…。
 彼女だけではなく、彰さんも…。最高到達でいえば、コート内一位であろう、そのジャンプ力だ…。
 身長こそは特別高い訳ではないが、相手チームのブロック更に上から叩き込めるところを見ると、まず間違いない…。
 「麻由美ちゃんも結構やるね。彰君のジャンプする位置と高さにちゃんと上げてる…。」
 今井さんが言うように、麻由美も彼等二人に負けてはいない…。セッターは攻撃の要であり、彼女のボールを上げるトスで、攻撃パターンが決まる。
 彰さんとアイコンタクトを取り、しっかりと、決められる所で決められている。
 所謂、安定している。バレーの試合は、旅館のバイト中、テレビで何度か見たことがあるが、ここまで安心してみて居られる試合は、ある意味初めてだった…。

 あっという間に、試合が終わり、2セット先取し、見事勝利した。
 「ちかれた~。」
 真っ先に声を上げたのは、新庄さんだった。ベンチ丸々一つ占領し、そこに俯せに横になった。
 コート上では、格好良かった彼女だったが、いつもの新庄明音に戻ってしまった…。
 「もう一試合あるのに、そんなんで良いの?」
 そう今井さんが問うと、赤くなった右腕で親指を立てた。
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