108 / 309
10章 争い
2 困難
しおりを挟む
「うま!」
月島さんが栗羊羹を一口頬張った。『元』とはいえ、料理人の彼がそう言うのだから、私の舌も間違いではなかった。
「そらおおきに。」
清水さんがニコリと微笑んだ。これが大人の魅力なのだろうか…。
今井さんも、それなりの物を持ち合わせていると思っていた。だが、たった今、私の中で、順位が変わってしまった。
喜怒哀楽がはっきりしている今井さんとは違い、少々ミステリアスな一面もあるが、それが、また良い…。
「香織ちゃん、何で私を見るの…。」
おっと、本人と目が合ってしまった…。
「いえ、何でもないです…。それより、他の白組はどこですか?」
どうにか、話を逸らし冊子に目をやる。
大型店舗は『れとろ』と『公清堂』以外に、『仙龍閣』という台湾料理店。
アメリカのファーストフードをメインに提供する『コルト』。
海鮮料理店の『海盛』の5店舗。他は屋台系の店舗が20店。
基本的には大型店舗のスタッフが主体となって回すのだが…。
「ダメだな…。」
そう呟いたのは、九条さんだった。
「仙龍閣、コルト、海盛の三店舗は、参加人数自体がギリギリだ…。とてもこっちに回せる余裕はないそうだ…。」
いつの間にか、他の店舗に打診しに行っていたらしい。確かに、三店舗ともかなりの道具や機材でテント内のスペースを使ってしまう。そのため、少数精鋭で臨んだというところだろう。
「ウチらもアカンのよね…。」
清水さんも申し訳なさそうに話した。理由は分かっている。
公清堂は人数こそ、れとろに負けず劣らずなのだが、殆どが女性スタッフなのだ。唯一の男性スタッフである、副料理長も高齢のおじいさんだ。
体力を使わない競技ならまだしも、体力がそれなりに必要なものは少し厳しいかもしれない。
「そうなることも予想していましたが、全てダメとなると、流石に厳しいですね…。」
古川マスターも唸る様な声を上げた。
「屋台連中も、流石に厳しいか…。」
「そがいな事は無いでぇ!」
テントの外から、熱い声がした。この独特な広島弁は…。
「お前は広島の…」
(山本広志)
月島さんが突っかかった言葉に、伊藤さんが小さく耳打ちした。
「ひ、広志!」
彩と寧々は肩を震わしていたが、私も月島さん同様、彼の名前どころか、存在すら忘れていたので、笑えなかった…。
「そう言やぁ、十八番も白だったなぁ。」
二代目が思い出した様に、冊子を覗き込んだ…。
捲っている肩や腕を見るに、体力や筋力には、れとろメンバーの誰よりも優れているかもしれない。だが…。
「良いのかい、自分の店は。」
彰さんが、彼に訊ねた。
月島さんが栗羊羹を一口頬張った。『元』とはいえ、料理人の彼がそう言うのだから、私の舌も間違いではなかった。
「そらおおきに。」
清水さんがニコリと微笑んだ。これが大人の魅力なのだろうか…。
今井さんも、それなりの物を持ち合わせていると思っていた。だが、たった今、私の中で、順位が変わってしまった。
喜怒哀楽がはっきりしている今井さんとは違い、少々ミステリアスな一面もあるが、それが、また良い…。
「香織ちゃん、何で私を見るの…。」
おっと、本人と目が合ってしまった…。
「いえ、何でもないです…。それより、他の白組はどこですか?」
どうにか、話を逸らし冊子に目をやる。
大型店舗は『れとろ』と『公清堂』以外に、『仙龍閣』という台湾料理店。
アメリカのファーストフードをメインに提供する『コルト』。
海鮮料理店の『海盛』の5店舗。他は屋台系の店舗が20店。
基本的には大型店舗のスタッフが主体となって回すのだが…。
「ダメだな…。」
そう呟いたのは、九条さんだった。
「仙龍閣、コルト、海盛の三店舗は、参加人数自体がギリギリだ…。とてもこっちに回せる余裕はないそうだ…。」
いつの間にか、他の店舗に打診しに行っていたらしい。確かに、三店舗ともかなりの道具や機材でテント内のスペースを使ってしまう。そのため、少数精鋭で臨んだというところだろう。
「ウチらもアカンのよね…。」
清水さんも申し訳なさそうに話した。理由は分かっている。
公清堂は人数こそ、れとろに負けず劣らずなのだが、殆どが女性スタッフなのだ。唯一の男性スタッフである、副料理長も高齢のおじいさんだ。
体力を使わない競技ならまだしも、体力がそれなりに必要なものは少し厳しいかもしれない。
「そうなることも予想していましたが、全てダメとなると、流石に厳しいですね…。」
古川マスターも唸る様な声を上げた。
「屋台連中も、流石に厳しいか…。」
「そがいな事は無いでぇ!」
テントの外から、熱い声がした。この独特な広島弁は…。
「お前は広島の…」
(山本広志)
月島さんが突っかかった言葉に、伊藤さんが小さく耳打ちした。
「ひ、広志!」
彩と寧々は肩を震わしていたが、私も月島さん同様、彼の名前どころか、存在すら忘れていたので、笑えなかった…。
「そう言やぁ、十八番も白だったなぁ。」
二代目が思い出した様に、冊子を覗き込んだ…。
捲っている肩や腕を見るに、体力や筋力には、れとろメンバーの誰よりも優れているかもしれない。だが…。
「良いのかい、自分の店は。」
彰さんが、彼に訊ねた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

探偵注文所
八雲 銀次郎
ミステリー
ここは、都内某所にある、ビルの地下二階。
この階に来るには、エレベーターでは来ることはできず、階段で降りる他ない。
ほとんどのスペースはシャッターが閉まり、テナント募集の紙が貼られていた。
しかし、その一角にまだ日の高いうちから、煌々とネオンの看板が光っている場所が存在する。
『ホームズ』看板にはそう書かれていた。
これだけだと、バーなのかスナックなのか、はたまた喫茶店なのかわからない。
もしかしたら、探偵事務所かも…
扉を開けるそのときまで、真実は閉ざされ続ける。
次話公開時間:毎週水・金曜日朝9:00
本職都合のため、急遽予定が変更されたり、休載する場合もあります。
同時期連載中の『レトロな事件簿』と世界観を共有しています。
玉石混交の玉手箱
如月さらさら
ミステリー
ショートストーリーの詰め合わせ。
福袋の中身は大抵期待外れではあるのだが、自分から買う意欲のない物を様々なバリエーションを伴い獲得出来るので、案外楽しさを含んでいるのだなぁ、なんて。
作品順は投稿時期ではなく、
単純に面白さ(面白いと思った)順になっています。
人それぞれの感性だなんて言わないで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる