レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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10章 争い

2 困難

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 「うま!」
 月島さんが栗羊羹を一口頬張った。『元』とはいえ、料理人の彼がそう言うのだから、私の舌も間違いではなかった。
 「そらおおきに。」
 清水さんがニコリと微笑んだ。これが大人の魅力なのだろうか…。
今井さんも、それなりの物を持ち合わせていると思っていた。だが、たった今、私の中で、順位が変わってしまった。
 喜怒哀楽がはっきりしている今井さんとは違い、少々ミステリアスな一面もあるが、それが、また良い…。
 「香織ちゃん、何で私を見るの…。」
 おっと、本人と目が合ってしまった…。
 「いえ、何でもないです…。それより、他の白組はどこですか?」
 どうにか、話を逸らし冊子に目をやる。
 大型店舗は『れとろ』と『公清堂』以外に、『仙龍閣せんりゅうかく』という台湾料理店。
アメリカのファーストフードをメインに提供する『コルト』。
 海鮮料理店の『海盛かいじょう』の5店舗。他は屋台系の店舗が20店。
 基本的には大型店舗のスタッフが主体となって回すのだが…。

 「ダメだな…。」
 そう呟いたのは、九条さんだった。
 「仙龍閣、コルト、海盛の三店舗は、参加人数自体がギリギリだ…。とてもこっちに回せる余裕はないそうだ…。」
 いつの間にか、他の店舗に打診しに行っていたらしい。確かに、三店舗ともかなりの道具や機材でテント内のスペースを使ってしまう。そのため、少数精鋭で臨んだというところだろう。
 「ウチらもアカンのよね…。」
 清水さんも申し訳なさそうに話した。理由は分かっている。
 公清堂は人数こそ、れとろに負けず劣らずなのだが、殆どが女性スタッフなのだ。唯一の男性スタッフである、副料理長も高齢のおじいさんだ。
 体力を使わない競技ならまだしも、体力がそれなりに必要なものは少し厳しいかもしれない。
 「そうなることも予想していましたが、全てダメとなると、流石に厳しいですね…。」
 古川マスターも唸る様な声を上げた。
 「屋台連中も、流石に厳しいか…。」
 「そがいな事は無いでぇ!」
 テントの外から、熱い声がした。この独特な広島弁は…。
 「お前は広島の…」
 (山本広志)
 月島さんが突っかかった言葉に、伊藤さんが小さく耳打ちした。
 「ひ、広志!」
 彩と寧々は肩を震わしていたが、私も月島さん同様、彼の名前どころか、存在すら忘れていたので、笑えなかった…。
 「そう言やぁ、十八番てっぱんも白だったなぁ。」
 二代目が思い出した様に、冊子を覗き込んだ…。
 捲っている肩や腕を見るに、体力や筋力には、れとろメンバーの誰よりも優れているかもしれない。だが…。
 「良いのかい、自分の店は。」
 彰さんが、彼に訊ねた。
 
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