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9章:悔み
12 憎悪
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物心着いた頃から、姉が一人居た。共働きの両親に変わって、何かと面倒を見てくれていた。
姉は物覚えがよく、学校のテストは常に満点だった。更に、運動神経もそれなりによく、まだ幼かった私をよく、近所の公園に連れて行っては、色んな遊びをしてくれた。
また、正義感も強く、虐めや嘘を嫌っていた。
私は、そんな姉が好きで、どこに行くにしても、後を着いて行った。姉も姉で、それを鬱陶しがらずに居てくれた。
しかし、姉が小五に上がった頃、次第に彼女の周りが狂い始めた。
学校で、虐めが行われていたらしい。小学生のテストとは言え、いつも満点をとれるものではない。だが、姉はどんなテストだろうと、必ず満点を取っていた。
それを妬み、面白くないと思ったクラスの生徒が主体となって、やっていたらしい。
姉は私や両親たちを心配させまいと、それを隠していた。だが、毎日の様に文具やノート等、ボロボロになって帰って来るのは、当時5歳の私からしても、異様な光景だった。
結局父親がそれに気が付き、姉を問い詰めた。姉は全てを白状した。
だが、父親が言い放った言葉は、怒りの言葉ではなく、呆れと嘆きだった。
私はそれまで知らなかったのだが、姉は両親からも精神的に虐げられていたらしい。
目に見えての暴力等ではなく、言葉やプレッシャー等…。
姉の驚異的な記憶力と理解力、観察力はいつしか、他人からは凶悪とまで恐れられる様になっていった。
それでも、私は姉の優しさを知って居たから、周りがなんと言おうと、彼女の味方で居たつもりだった。
私が小学校に上がった頃。つまり、姉が六年の時、その虐めが教員たちの目に留まり、一度は当事者及び保護者達が集められ、話し合いが行われたらしいが、ただの形式的な物で、効果はいま一つの様だった。
虐めは中学に上がっても続き、姉は次第に笑わなくなった。成績も中の中をキープする様になり、かつての面影は無くなった。
そんな姉の妹だから、私も少なからず頭の出来は良く、成績は常にトップクラスだった。それでも、私が虐めに遭う事が無かったのは、姉のお陰だったと、後々知った。
母親はいつも何方付かずの性格で、姉を心配していると思えば、父親側に着いたりと散々だった。
中二に上がる頃には帰りも遅くなり、私との会話も少なくなった。
それでも、私が勉強を教えてくれと言うと、嬉しそうに教えてくれた。
多分姉は、私の前では強く優しい姉で居られたのだと思う。だが、それが、一番のストレスだったのではないだろうか…。今はそう思うだけだった。
転機が訪れたのは、姉が高校に上がり、暫く経った、夏休みが始まる少し前。私の転校が決まった。
どうも、父親の転勤が原因だった。
終業式を終え、帰宅すると引越し用のトラックに荷物は積み終わっていた。その日は朝から雨が降っており、夏なのに少し涼しかったのを覚えている。
残りの荷物も車に積み、私は車に乗り込んだ。
姉はまだ夏休みまで、数日あるらしく、一足先に私たちだけで行くことになっていた。
しかし、待てど暮らせど、両親たちは姉を迎えに行く気配は無く、堪らず私は訊ねた。
返って来た応えは、『そんな人家にはいない。』だった。
私はこの直後の事はよく覚えていないが、姉が捨てられたのだと理解するまで、丸一ヶ月を要した。
今の自宅から、昔の自宅まで一つ県を跨いだ所にあり、当時小学生だった私にとっては、とんでもない距離だと思っていた。
私は、両親には内緒で前の小学校の担任に、その事を伝え、旧自宅を何度か見に行ってもらった。
しかし、家には誰かが居る形跡はなかったらしく、鍵も掛かっていた。
だが、秋の終わり頃もう一度、旧自宅に見に行ってもらうと、鍵が開いていた。
伽藍とした自宅内には、確かに数日前まで、人が住んでいた形跡があった。事件性があると判断した担任は、警察を呼び、自宅内を捜索してもらった。
その時の刑事さんから、家中の写真を頂いた。姉の部屋の写真は思わず目を覆いたくなった。
何度か暴れたのであろう、学習机は所々破損しており、天板の所には、血が滲んでいた。通学用のカバンや教科書類は引き裂かれ、文字通り使い物にならない…。壁や扉には、爪で引っ掻いた様な痕があり、そこにも血が滲んでいた。風呂場には何かを燃やした後があり、判別不可能となっていた。
結局私と担任、近所の人の証言があり、両親は事情聴取として警察に連れて行かれた。
その後、母は帰ってきたものの、そのまま精神病院に入院、父親は警察に行ったきり、帰ってきていない…。
その時の捜査で、姉は私が虐められない様に、常に先回りして動いていた事が解った。虐めの内容も結構過激な物が多かったらしく、警察の人は、話したがらなかった。
数か月後、姉の靴が自宅から二十キロ程離れたとある海岸沿いの防波堤で見つかった。その時点で、靴の劣化が激しいかった事と、自殺の名所だった事から、姉の捜索は打ち切られた。
姉は物覚えがよく、学校のテストは常に満点だった。更に、運動神経もそれなりによく、まだ幼かった私をよく、近所の公園に連れて行っては、色んな遊びをしてくれた。
また、正義感も強く、虐めや嘘を嫌っていた。
私は、そんな姉が好きで、どこに行くにしても、後を着いて行った。姉も姉で、それを鬱陶しがらずに居てくれた。
しかし、姉が小五に上がった頃、次第に彼女の周りが狂い始めた。
学校で、虐めが行われていたらしい。小学生のテストとは言え、いつも満点をとれるものではない。だが、姉はどんなテストだろうと、必ず満点を取っていた。
それを妬み、面白くないと思ったクラスの生徒が主体となって、やっていたらしい。
姉は私や両親たちを心配させまいと、それを隠していた。だが、毎日の様に文具やノート等、ボロボロになって帰って来るのは、当時5歳の私からしても、異様な光景だった。
結局父親がそれに気が付き、姉を問い詰めた。姉は全てを白状した。
だが、父親が言い放った言葉は、怒りの言葉ではなく、呆れと嘆きだった。
私はそれまで知らなかったのだが、姉は両親からも精神的に虐げられていたらしい。
目に見えての暴力等ではなく、言葉やプレッシャー等…。
姉の驚異的な記憶力と理解力、観察力はいつしか、他人からは凶悪とまで恐れられる様になっていった。
それでも、私は姉の優しさを知って居たから、周りがなんと言おうと、彼女の味方で居たつもりだった。
私が小学校に上がった頃。つまり、姉が六年の時、その虐めが教員たちの目に留まり、一度は当事者及び保護者達が集められ、話し合いが行われたらしいが、ただの形式的な物で、効果はいま一つの様だった。
虐めは中学に上がっても続き、姉は次第に笑わなくなった。成績も中の中をキープする様になり、かつての面影は無くなった。
そんな姉の妹だから、私も少なからず頭の出来は良く、成績は常にトップクラスだった。それでも、私が虐めに遭う事が無かったのは、姉のお陰だったと、後々知った。
母親はいつも何方付かずの性格で、姉を心配していると思えば、父親側に着いたりと散々だった。
中二に上がる頃には帰りも遅くなり、私との会話も少なくなった。
それでも、私が勉強を教えてくれと言うと、嬉しそうに教えてくれた。
多分姉は、私の前では強く優しい姉で居られたのだと思う。だが、それが、一番のストレスだったのではないだろうか…。今はそう思うだけだった。
転機が訪れたのは、姉が高校に上がり、暫く経った、夏休みが始まる少し前。私の転校が決まった。
どうも、父親の転勤が原因だった。
終業式を終え、帰宅すると引越し用のトラックに荷物は積み終わっていた。その日は朝から雨が降っており、夏なのに少し涼しかったのを覚えている。
残りの荷物も車に積み、私は車に乗り込んだ。
姉はまだ夏休みまで、数日あるらしく、一足先に私たちだけで行くことになっていた。
しかし、待てど暮らせど、両親たちは姉を迎えに行く気配は無く、堪らず私は訊ねた。
返って来た応えは、『そんな人家にはいない。』だった。
私はこの直後の事はよく覚えていないが、姉が捨てられたのだと理解するまで、丸一ヶ月を要した。
今の自宅から、昔の自宅まで一つ県を跨いだ所にあり、当時小学生だった私にとっては、とんでもない距離だと思っていた。
私は、両親には内緒で前の小学校の担任に、その事を伝え、旧自宅を何度か見に行ってもらった。
しかし、家には誰かが居る形跡はなかったらしく、鍵も掛かっていた。
だが、秋の終わり頃もう一度、旧自宅に見に行ってもらうと、鍵が開いていた。
伽藍とした自宅内には、確かに数日前まで、人が住んでいた形跡があった。事件性があると判断した担任は、警察を呼び、自宅内を捜索してもらった。
その時の刑事さんから、家中の写真を頂いた。姉の部屋の写真は思わず目を覆いたくなった。
何度か暴れたのであろう、学習机は所々破損しており、天板の所には、血が滲んでいた。通学用のカバンや教科書類は引き裂かれ、文字通り使い物にならない…。壁や扉には、爪で引っ掻いた様な痕があり、そこにも血が滲んでいた。風呂場には何かを燃やした後があり、判別不可能となっていた。
結局私と担任、近所の人の証言があり、両親は事情聴取として警察に連れて行かれた。
その後、母は帰ってきたものの、そのまま精神病院に入院、父親は警察に行ったきり、帰ってきていない…。
その時の捜査で、姉は私が虐められない様に、常に先回りして動いていた事が解った。虐めの内容も結構過激な物が多かったらしく、警察の人は、話したがらなかった。
数か月後、姉の靴が自宅から二十キロ程離れたとある海岸沿いの防波堤で見つかった。その時点で、靴の劣化が激しいかった事と、自殺の名所だった事から、姉の捜索は打ち切られた。
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