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9章:悔み
2 遅刻
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会場に着いたのは、午前9時少し前だった。
祭典スタートは正午。まだたっぷりと時間があるにも関わらず、テントや屋台で埋め尽くされていた。
それよりも、私の目に飛び込んできたのは、千人を優に超える群衆ではなく、目の前に広がる、真っ青とした海だった。
生きている内に、二度と同じ夏を経験することができない。そんな言葉を、どこかで聞いた。だが、私は今まで、同じ様な日々しか、味わったことが無い。
海なんて、一度も訪れた事は無い。だから、鼻に突く、スーパーの鮮魚コーナーの匂いが、噂に聞く、磯の香りだとは、気が付かなかった。
波打ち際では、既にかなりの人たちが、泳ぎ回っている。腕に火傷痕ができてからは、学校のプールも入れていないから、泳げるかどうかわからない。
砂浜に降りると、足の裏が焼ける様に熱かった。
都会の茹だる様な暑さとは違い、風もあり、嫌な暑さではない。
私たちのテントは、一番端にあり、既に出来上がっていた。テントの隣は、砂浜と道路を行き来するための、階段になっており、人を呼び込むには丁度良かった。
テントの中には、大体のメンバーが揃っており、残りは、寧々含めた甘王組の三人と、冷凍トラックの藤吉先生を待つだけだった。
「今年は寝坊しなかったみたいだな。」
包丁を研いでいた月島さんが、今井さんを冷やかした。
「行く先々で冷やかされるほどって、前回どんだけ寝坊したんですか?」
「忘れもしません。電話にお出になられたのは、11時前でした。」
「結局オープンには間に合わなくて、私まで駆り出されちゃって…。」
抱えていた荷物をテーブルに置き、呆れた様な顔で新庄さんが答えた。
「あの時は、あたしも焦った…。焦りすぎて、古川さんに日付聞いちゃって…。」
当時の集合時間が、今日の様な時間だとすれば、待つのが好きな私でも痺れを切らすだろう…。
仕事の時は、大体決まった時間に起きるのに、こういう時になると、根本的な事が出来なくなる…。
『押し付けられた完璧主義』と言うのは、こういうところにも、影響を及ぼすのか…。
「あちぃ~焼ける~。」
そう言って背後から近づいてきたのは、彩たちだった。どうやら、甘王組の三人もたった今、到着したみたいだった。
「今回の最後は、ジン君で決まりね!」
今井さんが声を張り上げた。余程、根に持っている様だ…。しかし…。
「残念ながら、ジンさんはもう既に、近くの漁港で待機してる。」
新庄さんが、スマホのメッセージ画面を、印籠の様にかざした。確かに、1時間ほど前に、「着いたから寝る」と送られていた。
藤吉先生の大きいトラックは、近くに駐車できるスペースがなく、1キロ程離れた、漁港に停車させているらしい。
「じゃ、じゃぁ最後にテントに入ってきた、寧々ちゃんがビリで!」
ビシッと指を指して、更に声を上げた。初めて今井さんに対して、大人げないと思った瞬間だった。
「何が何だか解らないけど、私等は他の屋台とかテントとか、偵察しながら来たから、15分程前くらいには、ここら辺には、着いてたよ?」
いまいち話が飲み込めない寧々が首を傾げ、反論した。彩と遠野さんも、激しく頷く。
「…。」
完全に意気消沈していた。それもそうだ、私が起こさなければ、去年の二の舞を食らっていたも同然だからだ…。
「まぁ、何はともあれ、遅刻しないのは感心です。」
古川マスターがまとめたが、目線は今井さんの方を見据えていた。
テントで準備し始めた時、嫌な悪寒が走った。
人には、不思議な感覚があるらしい。視界の隅にでも入ったのか…。
それとも、賑やかな音の中にでも声が混じっているのか…。
それ以外に、第六感が働いたのかはか定かではない。
この大勢いる人々の中に、何か恐ろしいものが存在する…。
そんな感じがした…。
祭典スタートは正午。まだたっぷりと時間があるにも関わらず、テントや屋台で埋め尽くされていた。
それよりも、私の目に飛び込んできたのは、千人を優に超える群衆ではなく、目の前に広がる、真っ青とした海だった。
生きている内に、二度と同じ夏を経験することができない。そんな言葉を、どこかで聞いた。だが、私は今まで、同じ様な日々しか、味わったことが無い。
海なんて、一度も訪れた事は無い。だから、鼻に突く、スーパーの鮮魚コーナーの匂いが、噂に聞く、磯の香りだとは、気が付かなかった。
波打ち際では、既にかなりの人たちが、泳ぎ回っている。腕に火傷痕ができてからは、学校のプールも入れていないから、泳げるかどうかわからない。
砂浜に降りると、足の裏が焼ける様に熱かった。
都会の茹だる様な暑さとは違い、風もあり、嫌な暑さではない。
私たちのテントは、一番端にあり、既に出来上がっていた。テントの隣は、砂浜と道路を行き来するための、階段になっており、人を呼び込むには丁度良かった。
テントの中には、大体のメンバーが揃っており、残りは、寧々含めた甘王組の三人と、冷凍トラックの藤吉先生を待つだけだった。
「今年は寝坊しなかったみたいだな。」
包丁を研いでいた月島さんが、今井さんを冷やかした。
「行く先々で冷やかされるほどって、前回どんだけ寝坊したんですか?」
「忘れもしません。電話にお出になられたのは、11時前でした。」
「結局オープンには間に合わなくて、私まで駆り出されちゃって…。」
抱えていた荷物をテーブルに置き、呆れた様な顔で新庄さんが答えた。
「あの時は、あたしも焦った…。焦りすぎて、古川さんに日付聞いちゃって…。」
当時の集合時間が、今日の様な時間だとすれば、待つのが好きな私でも痺れを切らすだろう…。
仕事の時は、大体決まった時間に起きるのに、こういう時になると、根本的な事が出来なくなる…。
『押し付けられた完璧主義』と言うのは、こういうところにも、影響を及ぼすのか…。
「あちぃ~焼ける~。」
そう言って背後から近づいてきたのは、彩たちだった。どうやら、甘王組の三人もたった今、到着したみたいだった。
「今回の最後は、ジン君で決まりね!」
今井さんが声を張り上げた。余程、根に持っている様だ…。しかし…。
「残念ながら、ジンさんはもう既に、近くの漁港で待機してる。」
新庄さんが、スマホのメッセージ画面を、印籠の様にかざした。確かに、1時間ほど前に、「着いたから寝る」と送られていた。
藤吉先生の大きいトラックは、近くに駐車できるスペースがなく、1キロ程離れた、漁港に停車させているらしい。
「じゃ、じゃぁ最後にテントに入ってきた、寧々ちゃんがビリで!」
ビシッと指を指して、更に声を上げた。初めて今井さんに対して、大人げないと思った瞬間だった。
「何が何だか解らないけど、私等は他の屋台とかテントとか、偵察しながら来たから、15分程前くらいには、ここら辺には、着いてたよ?」
いまいち話が飲み込めない寧々が首を傾げ、反論した。彩と遠野さんも、激しく頷く。
「…。」
完全に意気消沈していた。それもそうだ、私が起こさなければ、去年の二の舞を食らっていたも同然だからだ…。
「まぁ、何はともあれ、遅刻しないのは感心です。」
古川マスターがまとめたが、目線は今井さんの方を見据えていた。
テントで準備し始めた時、嫌な悪寒が走った。
人には、不思議な感覚があるらしい。視界の隅にでも入ったのか…。
それとも、賑やかな音の中にでも声が混じっているのか…。
それ以外に、第六感が働いたのかはか定かではない。
この大勢いる人々の中に、何か恐ろしいものが存在する…。
そんな感じがした…。
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