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7章:廻り
9 悲鳴
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人が安心するときと言うのは、どういうときだろうか…。自宅で、自分の寝床にもぐりこんだ時。好きな音楽を聴いている時…。人によって、様々だと思う。
だが、私はそれまで、安心すること自体、出来ないで居た。いつの間にか、寝ている時でも、少しの物音がすれば、目が覚めた。
それは、今でもそうだった。自分でも、この変わった体質が、嫌いだった。
「く、九条…さん…?ど、どうして…。」
「麻由美ちゃんから色々聞いてね。もしかしたら、ここかもと思って、朝から車飛ばしてきた。」
いつもと変わらない、優しい口調だった。でも、この声が、今の私を、一番安心させた。思い直せば、このたった数ヶ月で、彼には何度も助けられてきた。彼だけでなく、藤吉先生や今井さんにも…。最初から、彼等に相談すればよかったのだろうが、そこまで頭が回らなかった。
そんな簡単な答えにたどり着けない程、思考がマヒしてしまっていた。そんな自分が、更に情けなくなり、不意に目を逸らしてしまった。それを悟られるのが、嫌だった。
すると、彼は疲れた様に、ため息をつき、近くにあった椅子に腰を落とした。
「実は寝てなくてね…。君が無事だと分かって、どっと疲れたよ…。」
私もこの三日、不安で碌に眠れなかった。
あの督促状、実は心当たりがあった。出来れば、夢であって欲しいと、あの時からずっと願っていた。親からの仕打ちだったら良かったと、昨日まで、ずっと思っていた。
そうすれば、憎む人が少なくなるから…。
だが、残念なことに、私の中には、敵が多すぎる…。
逃げたかった。だから、あの部屋を飛び出し、着の身着のまま、歩き続けた。でも、疲れた。だから、せめて、お世話になった人たちに、お礼をと、この地に足を運んだ…。
「そんな顔を見に来たんじゃないんだけどな。」
「…へ…?」
「そんな、『すみませんでした。』と言わんばかりの、顔を見せられても、意味がないって言ってるんだ。」
すると、おもむろに立ち上がった。
「もう、どうしようもないんだろ?」
全てを、悟られた。この人には。敵わない…。
そう思った瞬間だった。胸の下の辺りが、苦しくなり、熱い物が一気に喉元まで上がってきた。この感覚は、昔は何度も何度も経験していたが、最近は忘れかけていた。
身体は震え、肩には重い物がのしかかっている。感情がまだ、ぐちゃぐちゃの中、色々と理解が追いつかない…。
“苦しい”ただそれだけが、私を包み込んだ…。
すると、柔らかい、コーヒーの苦い香りが体を撫でた。温かい…。先程から有る、胸の熱い物と同じくらいの温度だ…。
気付けば、脚に力が入っていない…。
「ほら見ろ、もう、自分の力で立てもしない…。」
頭の上でそう呟かれた…。もう、自分でも抑えられなかった。外にも聞こえるくらいに、大声で泣いた。
どこに逃げても、どんなに逃げても、私は逃れられない。何で、私だけこんな思いしなくちゃならない。誰にも相談することも、考えられない程、辛かった。もう疲れた。
そんな事を、彼の胸の中で泣き叫んだ。16年分の苦しさ。誰かに分かってもらいたかった。吐き出したい事は、山ほどあった。言っていることも、支離滅裂だった。私の思考が、感情に押し負けた。
その一言を発すれば、誰かに押し付ける事になるかもしれない…。そもそも、その言葉自体、信用していなかった。
もう、そんな事言っている場合ではない。それほど、追い詰められた。
頼むから、誰か、私を
「助けて…。」
「もちろん。」
頭をなでるその手が、凄く優しかった。
だが、私はそれまで、安心すること自体、出来ないで居た。いつの間にか、寝ている時でも、少しの物音がすれば、目が覚めた。
それは、今でもそうだった。自分でも、この変わった体質が、嫌いだった。
「く、九条…さん…?ど、どうして…。」
「麻由美ちゃんから色々聞いてね。もしかしたら、ここかもと思って、朝から車飛ばしてきた。」
いつもと変わらない、優しい口調だった。でも、この声が、今の私を、一番安心させた。思い直せば、このたった数ヶ月で、彼には何度も助けられてきた。彼だけでなく、藤吉先生や今井さんにも…。最初から、彼等に相談すればよかったのだろうが、そこまで頭が回らなかった。
そんな簡単な答えにたどり着けない程、思考がマヒしてしまっていた。そんな自分が、更に情けなくなり、不意に目を逸らしてしまった。それを悟られるのが、嫌だった。
すると、彼は疲れた様に、ため息をつき、近くにあった椅子に腰を落とした。
「実は寝てなくてね…。君が無事だと分かって、どっと疲れたよ…。」
私もこの三日、不安で碌に眠れなかった。
あの督促状、実は心当たりがあった。出来れば、夢であって欲しいと、あの時からずっと願っていた。親からの仕打ちだったら良かったと、昨日まで、ずっと思っていた。
そうすれば、憎む人が少なくなるから…。
だが、残念なことに、私の中には、敵が多すぎる…。
逃げたかった。だから、あの部屋を飛び出し、着の身着のまま、歩き続けた。でも、疲れた。だから、せめて、お世話になった人たちに、お礼をと、この地に足を運んだ…。
「そんな顔を見に来たんじゃないんだけどな。」
「…へ…?」
「そんな、『すみませんでした。』と言わんばかりの、顔を見せられても、意味がないって言ってるんだ。」
すると、おもむろに立ち上がった。
「もう、どうしようもないんだろ?」
全てを、悟られた。この人には。敵わない…。
そう思った瞬間だった。胸の下の辺りが、苦しくなり、熱い物が一気に喉元まで上がってきた。この感覚は、昔は何度も何度も経験していたが、最近は忘れかけていた。
身体は震え、肩には重い物がのしかかっている。感情がまだ、ぐちゃぐちゃの中、色々と理解が追いつかない…。
“苦しい”ただそれだけが、私を包み込んだ…。
すると、柔らかい、コーヒーの苦い香りが体を撫でた。温かい…。先程から有る、胸の熱い物と同じくらいの温度だ…。
気付けば、脚に力が入っていない…。
「ほら見ろ、もう、自分の力で立てもしない…。」
頭の上でそう呟かれた…。もう、自分でも抑えられなかった。外にも聞こえるくらいに、大声で泣いた。
どこに逃げても、どんなに逃げても、私は逃れられない。何で、私だけこんな思いしなくちゃならない。誰にも相談することも、考えられない程、辛かった。もう疲れた。
そんな事を、彼の胸の中で泣き叫んだ。16年分の苦しさ。誰かに分かってもらいたかった。吐き出したい事は、山ほどあった。言っていることも、支離滅裂だった。私の思考が、感情に押し負けた。
その一言を発すれば、誰かに押し付ける事になるかもしれない…。そもそも、その言葉自体、信用していなかった。
もう、そんな事言っている場合ではない。それほど、追い詰められた。
頼むから、誰か、私を
「助けて…。」
「もちろん。」
頭をなでるその手が、凄く優しかった。
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