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6章:代り
11 交代
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「店主だ?随分と若けぇな。どっちにしろ、金が絡んでるんだ。簡単に返すわけにはいかねぇな。」
男たちが囲んでいる所為で、彼の表情はうかがえないが、反応はない様だ。
「だから、あんたは帰りな?痛い目見たくないだろ?」
男の一人が、肩を掴んだ。その瞬間、男が悲鳴を上げた。掴んだはずの右腕が、捻られ、体制が崩れている。
他の男たちもそれを見て、身構える。
「俺は話し合いに来たつもりだが、どうか穏便にできやしないか?」
男たちが身構えたお陰で、少しだけ彼の顔が見えた。鋭い目つきで、男たちを睨みつけていた。喋り口調は一条さんの人格に似ているが、迫力が違う。
「話し合いねぇ…。もうあの娘が自分の意思で決めた事だ。店主さんが止める権利はねぇよ。」
それを聞いた後、掴んでいた腕を離し、押し返す。
「じゃぁ、力ずくで。」
彼の前に居た男二人が、吹き飛び、テーブルの上に転がる。
それが合図だったのか、他の男たちが、彼に殴りかかる。だが、一つ一つ躱し、カウンターを入れて行く。
見ている分にはとても、簡単そうだが、大の男が、次々と、倒れ込んでいく。
しかし、男たちもこの道の人。簡単には潰れない。あろうことか、どこから持ってきたのか、木刀や鉄パイプも装備し始めた。
流石に射程が長くなると、避けるだけでは、カウンターが届かない。
「流石にキツイか…。」
振り落とされた鉄パイプを掴み、ぼそっと呟いた。次の瞬間、彼は目を瞑った。この状況で、目を瞑るのは、自殺行為だ。流石の私でも、それくらい解る…。
「危ない!」
叫んだが、間に合わず。背後から思いっきり、木刀で殴られた。
だが、彼は倒れない。よく見ると、頭ではなく、肩に当たっていた。
その直後、木刀を掴み、柔道の背負い投げの様に、男もろとも、投げ飛ばした。
更に、他の男たちも、蹴り技で、次々と伸されていく…。
最終的に、私の隣に居た、にやけ顔の男しかいなくなった。
「お、お前…何者だ…。」
落胆した様な声だった。彼がずかずかと、無言のまま近づいてくる。
そして、私の腕を握ると、男から引き離した。
「この娘は返してもらうぞ。」
「…。」
男は脱力した様に、座り込んだ。
たった今、彩から宮本香織の過去を聞いた。古川さんも知って居たらしく、所々補足してくれた。
「だから、香織ちゃんが言っていた、『悲しむ人が居ない』って言うのは、そう言う事だと思う…。」
私の想像を遥かに超えていた。ましてや、腕に怪我があったことは、微塵も思わなかった…。考え直すと、確かにそんな素振りが、なかった訳ではなかった。
「でも、どうして、そこまでしたんですかね…。幾ら、そうだったとしても、他人の為に…。」
「それは多分、他人に頼られたのが、初めてだったのでしょう。
頼まれる事は、多少なりとも、あったとは思いますが、他人に、それも、彼女にとっては、数少ない友人に頼られたとなれば、何としても、助けたかったのでしょう…。」
私は逆だった。弟が小学に入学した辺りで、他人に頼ることは、殆どなくなった。親からも、『姉だから』とは何度か言われた。私もそれが当たり前だと思っていた。
彼女より辛い環境ではなかったのが、幸いだったのか、苦痛ではなかった。
でも、彼女は十年以上も、一人でずっと苦しんできた。頼っても、期待に応えてくれない。もしかしたら、自分の様な他人を作りたくなかったのかもしれない…。
九条さんが行ってくれたとは言え、二人とも無事で帰って来るとは限らない。もしもの事があったらと思うと、気が気ではなかった。
男たちが囲んでいる所為で、彼の表情はうかがえないが、反応はない様だ。
「だから、あんたは帰りな?痛い目見たくないだろ?」
男の一人が、肩を掴んだ。その瞬間、男が悲鳴を上げた。掴んだはずの右腕が、捻られ、体制が崩れている。
他の男たちもそれを見て、身構える。
「俺は話し合いに来たつもりだが、どうか穏便にできやしないか?」
男たちが身構えたお陰で、少しだけ彼の顔が見えた。鋭い目つきで、男たちを睨みつけていた。喋り口調は一条さんの人格に似ているが、迫力が違う。
「話し合いねぇ…。もうあの娘が自分の意思で決めた事だ。店主さんが止める権利はねぇよ。」
それを聞いた後、掴んでいた腕を離し、押し返す。
「じゃぁ、力ずくで。」
彼の前に居た男二人が、吹き飛び、テーブルの上に転がる。
それが合図だったのか、他の男たちが、彼に殴りかかる。だが、一つ一つ躱し、カウンターを入れて行く。
見ている分にはとても、簡単そうだが、大の男が、次々と、倒れ込んでいく。
しかし、男たちもこの道の人。簡単には潰れない。あろうことか、どこから持ってきたのか、木刀や鉄パイプも装備し始めた。
流石に射程が長くなると、避けるだけでは、カウンターが届かない。
「流石にキツイか…。」
振り落とされた鉄パイプを掴み、ぼそっと呟いた。次の瞬間、彼は目を瞑った。この状況で、目を瞑るのは、自殺行為だ。流石の私でも、それくらい解る…。
「危ない!」
叫んだが、間に合わず。背後から思いっきり、木刀で殴られた。
だが、彼は倒れない。よく見ると、頭ではなく、肩に当たっていた。
その直後、木刀を掴み、柔道の背負い投げの様に、男もろとも、投げ飛ばした。
更に、他の男たちも、蹴り技で、次々と伸されていく…。
最終的に、私の隣に居た、にやけ顔の男しかいなくなった。
「お、お前…何者だ…。」
落胆した様な声だった。彼がずかずかと、無言のまま近づいてくる。
そして、私の腕を握ると、男から引き離した。
「この娘は返してもらうぞ。」
「…。」
男は脱力した様に、座り込んだ。
たった今、彩から宮本香織の過去を聞いた。古川さんも知って居たらしく、所々補足してくれた。
「だから、香織ちゃんが言っていた、『悲しむ人が居ない』って言うのは、そう言う事だと思う…。」
私の想像を遥かに超えていた。ましてや、腕に怪我があったことは、微塵も思わなかった…。考え直すと、確かにそんな素振りが、なかった訳ではなかった。
「でも、どうして、そこまでしたんですかね…。幾ら、そうだったとしても、他人の為に…。」
「それは多分、他人に頼られたのが、初めてだったのでしょう。
頼まれる事は、多少なりとも、あったとは思いますが、他人に、それも、彼女にとっては、数少ない友人に頼られたとなれば、何としても、助けたかったのでしょう…。」
私は逆だった。弟が小学に入学した辺りで、他人に頼ることは、殆どなくなった。親からも、『姉だから』とは何度か言われた。私もそれが当たり前だと思っていた。
彼女より辛い環境ではなかったのが、幸いだったのか、苦痛ではなかった。
でも、彼女は十年以上も、一人でずっと苦しんできた。頼っても、期待に応えてくれない。もしかしたら、自分の様な他人を作りたくなかったのかもしれない…。
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