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6章:代り
2 協力
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「手術費はどうにかなるんだけど、そうなると今度は、私の学費が足りなくなる…。
小さい頃から、貯金がするのが好きで、奨学金含めれば、一年分くらいなら、何とか持ちこたえられる。
でも、ばぁちゃんの事だから、今度は、手術しないとか言い出すかもしれない…。」
普段の彼女からは、想像もつかない様な、暗く、悲しい話だった。
「ばぁちゃんには、長生きして欲しい。かといって、入学費まで援助してもらったから、この大学を辞める訳にもいかない。
だから、治療費くらい私がドンと出せれば、ばぁちゃんも安心できるかなぁと思って…。」
彼女のおばあさんとは、会ったことはないが、二人が二人、それぞれをちゃんと、思い合って暮らしている。私の想像では、とてもじゃないが、追いつかない。
私もバイトはしているが、それは、自分が生きる為。彼女は人の為とは、訳が違う。
だからこそ、どうにかしてあげたい。彼女には、偶然だが、一度助けられている。それも含めて、力になってあげたかった。
「分かった。でも、あまり期待しないでね。」
場所を移し、れとろのカウンターに彼女を座らせた。
「お話があります。って連絡来たから、てっきりそういう系かと思ったら、的外れか…。」
一体何を期待していたのかは、分からないが、話を進める。
「どうですか?雇えます?九条さん。」
「雇えなくはないが、治療費を稼ぐとなると、かなりの時間かかるね…。」
カウンター内で腕を組み考え込む。そもそも、この店では、普段からバイトを雇っていない。私が、異例中の異例。店内もそれほど広くないため、忙しくても、二人で何とか回せてしまう。
「香織ちゃんのシフト減らせば何とかなるか…。」
「え…。」
「む、無理なら良いよ!自分で探せないわけではないし…。」
「冗談だよ。だけど、今回ばかりは、期待に沿えるとは、限らないよ。」
そう言うと、スマホを取り出し、何件か電話を掛け始めた。
その間、買い出しに行っていた古川マスターが戻って来た。事のあらましを話し、取り敢えず、週単位で寧々を雇うことになった。
「ごめんね…。無理やり頼み込んだみたいになっちゃって…。
もし、私の所為で、香織ちゃんのシフト減るとかなら…。」
「大丈夫。そもそもシフト自体ないから。」
休憩室の共有ロッカーを空け、使ってもらう事にした。寧々は私と違い、コーヒーに関しての知識は人並み程度なので、接客をメインにしてもらうことになった。
連絡先等々を登録していた時、格子戸を開け、今井さんが入店してきた。走って来たのか、肩で呼吸をしていた。
「香織ちゃんの頼みって言うから、急いできた。」
手には紙袋を持っている所を見ると、九条さんから、事情を聞いたのだろう。
それにしても…。
「まだ、電話して十分だぞ…。」
水を一杯与え、手に持っていた紙袋を受け取った。
「香織ちゃんと同じくらいって、言ってたから、同じサイズの物持ってきた。
あと、夏服。この間渡すの忘れてた。」
徐々に呼吸が戻り、そう告げた。
夏服と言っても、いつもの素材が違う、ボタンダウンタイプになるだけで、服装が大きく変わる訳ではなかった。
「貴女が寧々ちゃんね?あたしは今井。よろしくね。」
「今井…。もしかして、クラウンの今井真香?」
「正解…。見たか!男ども!これが、『イマドキ』の反応よ!」
九条さんと古川マスターが同時に彼女から目を逸らした。私も男ではないが、思わず目を逸らしてしまった。
「ここれで、香織ちゃんとも、大学以外でも会う口実ができたって訳か…。」
制服を受け取りながら、寧々がそう呟いた
そう言えば、今、気が付いてしまった。この二人、性格が似ている…。
「羨ましい…。」
今井さんの呟きは、聞こえなかったことにした。
小さい頃から、貯金がするのが好きで、奨学金含めれば、一年分くらいなら、何とか持ちこたえられる。
でも、ばぁちゃんの事だから、今度は、手術しないとか言い出すかもしれない…。」
普段の彼女からは、想像もつかない様な、暗く、悲しい話だった。
「ばぁちゃんには、長生きして欲しい。かといって、入学費まで援助してもらったから、この大学を辞める訳にもいかない。
だから、治療費くらい私がドンと出せれば、ばぁちゃんも安心できるかなぁと思って…。」
彼女のおばあさんとは、会ったことはないが、二人が二人、それぞれをちゃんと、思い合って暮らしている。私の想像では、とてもじゃないが、追いつかない。
私もバイトはしているが、それは、自分が生きる為。彼女は人の為とは、訳が違う。
だからこそ、どうにかしてあげたい。彼女には、偶然だが、一度助けられている。それも含めて、力になってあげたかった。
「分かった。でも、あまり期待しないでね。」
場所を移し、れとろのカウンターに彼女を座らせた。
「お話があります。って連絡来たから、てっきりそういう系かと思ったら、的外れか…。」
一体何を期待していたのかは、分からないが、話を進める。
「どうですか?雇えます?九条さん。」
「雇えなくはないが、治療費を稼ぐとなると、かなりの時間かかるね…。」
カウンター内で腕を組み考え込む。そもそも、この店では、普段からバイトを雇っていない。私が、異例中の異例。店内もそれほど広くないため、忙しくても、二人で何とか回せてしまう。
「香織ちゃんのシフト減らせば何とかなるか…。」
「え…。」
「む、無理なら良いよ!自分で探せないわけではないし…。」
「冗談だよ。だけど、今回ばかりは、期待に沿えるとは、限らないよ。」
そう言うと、スマホを取り出し、何件か電話を掛け始めた。
その間、買い出しに行っていた古川マスターが戻って来た。事のあらましを話し、取り敢えず、週単位で寧々を雇うことになった。
「ごめんね…。無理やり頼み込んだみたいになっちゃって…。
もし、私の所為で、香織ちゃんのシフト減るとかなら…。」
「大丈夫。そもそもシフト自体ないから。」
休憩室の共有ロッカーを空け、使ってもらう事にした。寧々は私と違い、コーヒーに関しての知識は人並み程度なので、接客をメインにしてもらうことになった。
連絡先等々を登録していた時、格子戸を開け、今井さんが入店してきた。走って来たのか、肩で呼吸をしていた。
「香織ちゃんの頼みって言うから、急いできた。」
手には紙袋を持っている所を見ると、九条さんから、事情を聞いたのだろう。
それにしても…。
「まだ、電話して十分だぞ…。」
水を一杯与え、手に持っていた紙袋を受け取った。
「香織ちゃんと同じくらいって、言ってたから、同じサイズの物持ってきた。
あと、夏服。この間渡すの忘れてた。」
徐々に呼吸が戻り、そう告げた。
夏服と言っても、いつもの素材が違う、ボタンダウンタイプになるだけで、服装が大きく変わる訳ではなかった。
「貴女が寧々ちゃんね?あたしは今井。よろしくね。」
「今井…。もしかして、クラウンの今井真香?」
「正解…。見たか!男ども!これが、『イマドキ』の反応よ!」
九条さんと古川マスターが同時に彼女から目を逸らした。私も男ではないが、思わず目を逸らしてしまった。
「ここれで、香織ちゃんとも、大学以外でも会う口実ができたって訳か…。」
制服を受け取りながら、寧々がそう呟いた
そう言えば、今、気が付いてしまった。この二人、性格が似ている…。
「羨ましい…。」
今井さんの呟きは、聞こえなかったことにした。
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