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6章:代り
1 異変
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寧々の異変に気付いたのは、私だけではなかった。仕事の都合上、街中を車で巡っている、新庄さんが教えてくれた。
直接会ったことはないが、よく彩と二人で居るところを、度々、目撃して居た為、顔は知っているらしい。
だが、最近一人で居たり、夜に見かける事が多くなり、私の所に相談しに来た、との事。
「彩ちゃんに聞くか迷ったけど、喧嘩中とかだったら、迷惑だと思って、香織ちゃんに聞きに来たけど…。」
「私もバイトし始めたとしか聞いてないので、詳しいことは解りません…。」
「でも、ここ最近毎日だよ?始めたばかりとは言え、毎日シフト入れるかなぁ?」
言われてみれば、確かにそうだ。いくらお金が欲しいとは言え、サークルに行く暇もなく、バイトをしなければならないのか。
考え直してみれば、最近のお昼のお弁当も、いつもより、一品少なかったり、お握りだけの時もあった。それほど、生活に困っているのか…。
「まぁ、バイトと一言に言っても、目的は人それぞれですからね…。あまり、余計な詮索しないのが、彼女の為になるかもしれませんね。」
豆の袋詰め作業をしていた、古川マスターが、助言した。
そうなのかもしれないが、バイト先も分からない以上、余計に心配になる。
まだ、レトロの方が休業中の為、最近は日が出ている時間帯に帰宅している。
今日は食料の買い足しの為、スーパに寄った帰りで、日もそれなりに沈み、暗くなり始めていた。
料理は人並みにはできるが、この時期、火はあまり使いたくないので、総菜や冷凍食品を買うことが多くなった。
この位置からだと、繁華街を突っ切った方が近い。表通りには居酒屋や飲食店が立ち並び、夜でも賑やかだ。だが、一本裏路地に入ると、キャバクラやホストなどの、大人のお店も多くなる。そのため、客引きもちらほらみられる。
丁度、中間地点に差し掛かった時、聞き覚えのある声が聞こえた。思わず、顔を逸らした。間違いない、寧々の声だった。
「お兄さん、一杯いかがです?」
こっそり目を向けると、いつもの派手な色の髪をした彼女ではなく、茶髪の綺麗な女性が、サラリーマンらしき男性に声を掛けていた。
彼女の後ろには、煌びやかな看板が目に付くお店が見える。しばらく見つめていたのが悪かったのか、目が会った…。
慌てた様に駆け寄って来た。
「ご、ごめん。たまたま通り掛かっただけ…。」
何故か謝ってしまった。その所為で、「本当の事が」、言い訳の様になってしまった…。
「大丈夫、それより、皆には内緒にしてて。後で、しっかり話すから。お願い!」
両手を拝むように合わせて、言ってきた。
いつも明るく、頼りになる彼女だが、この時だけは、とても弱々しかった。
「分かった。でも、お酒とかは飲んでないよね?」
彼女は全力で首を横に振り、『恩に着る』とだけ言い、元の場所に戻って行った。
「ガールズバーだね。」
背後から聞こえた九条さんの声に、またしても驚いてしまった。デジャブな様な気がした。
「お、驚かさないで下さい…。」
「今の娘、この間彩ちゃんと来ていた娘だよね?」
「言わないで下さいね…。」
「大体は聞こえていたから、言わないよ。」
次の日、私は寧々にこっそりと呼び出された。二人で静かに話せる場所は、なかなかなく、仕方なしに藤吉先生の教授室を借りることにした。
「香織ちゃんのとこで、短期間で良いから、バイト雇えない?」
入って早々、そんな事を聞かれた。無理ではないだろうが、古川マスターや九条さんに相談してみないことには、どうにもならない。
「昨日の所、時給は良いんだけど、なんか、怖くって…。香織ちゃんの所とかなら、安全そうだなと思って…。」
この間の件もあり、とても安全とは私の口からは言えなかった。それよりも…。
「お金が欲しいって、彩に聞いたけど、何に使うの?」
最初は、はぐらかされたが、何度目かの問いかけで、ぽつりぽつりとだが、ようやっと話始めた。
「ばぁちゃんが、癌で入院しちゃって…。」
直接会ったことはないが、よく彩と二人で居るところを、度々、目撃して居た為、顔は知っているらしい。
だが、最近一人で居たり、夜に見かける事が多くなり、私の所に相談しに来た、との事。
「彩ちゃんに聞くか迷ったけど、喧嘩中とかだったら、迷惑だと思って、香織ちゃんに聞きに来たけど…。」
「私もバイトし始めたとしか聞いてないので、詳しいことは解りません…。」
「でも、ここ最近毎日だよ?始めたばかりとは言え、毎日シフト入れるかなぁ?」
言われてみれば、確かにそうだ。いくらお金が欲しいとは言え、サークルに行く暇もなく、バイトをしなければならないのか。
考え直してみれば、最近のお昼のお弁当も、いつもより、一品少なかったり、お握りだけの時もあった。それほど、生活に困っているのか…。
「まぁ、バイトと一言に言っても、目的は人それぞれですからね…。あまり、余計な詮索しないのが、彼女の為になるかもしれませんね。」
豆の袋詰め作業をしていた、古川マスターが、助言した。
そうなのかもしれないが、バイト先も分からない以上、余計に心配になる。
まだ、レトロの方が休業中の為、最近は日が出ている時間帯に帰宅している。
今日は食料の買い足しの為、スーパに寄った帰りで、日もそれなりに沈み、暗くなり始めていた。
料理は人並みにはできるが、この時期、火はあまり使いたくないので、総菜や冷凍食品を買うことが多くなった。
この位置からだと、繁華街を突っ切った方が近い。表通りには居酒屋や飲食店が立ち並び、夜でも賑やかだ。だが、一本裏路地に入ると、キャバクラやホストなどの、大人のお店も多くなる。そのため、客引きもちらほらみられる。
丁度、中間地点に差し掛かった時、聞き覚えのある声が聞こえた。思わず、顔を逸らした。間違いない、寧々の声だった。
「お兄さん、一杯いかがです?」
こっそり目を向けると、いつもの派手な色の髪をした彼女ではなく、茶髪の綺麗な女性が、サラリーマンらしき男性に声を掛けていた。
彼女の後ろには、煌びやかな看板が目に付くお店が見える。しばらく見つめていたのが悪かったのか、目が会った…。
慌てた様に駆け寄って来た。
「ご、ごめん。たまたま通り掛かっただけ…。」
何故か謝ってしまった。その所為で、「本当の事が」、言い訳の様になってしまった…。
「大丈夫、それより、皆には内緒にしてて。後で、しっかり話すから。お願い!」
両手を拝むように合わせて、言ってきた。
いつも明るく、頼りになる彼女だが、この時だけは、とても弱々しかった。
「分かった。でも、お酒とかは飲んでないよね?」
彼女は全力で首を横に振り、『恩に着る』とだけ言い、元の場所に戻って行った。
「ガールズバーだね。」
背後から聞こえた九条さんの声に、またしても驚いてしまった。デジャブな様な気がした。
「お、驚かさないで下さい…。」
「今の娘、この間彩ちゃんと来ていた娘だよね?」
「言わないで下さいね…。」
「大体は聞こえていたから、言わないよ。」
次の日、私は寧々にこっそりと呼び出された。二人で静かに話せる場所は、なかなかなく、仕方なしに藤吉先生の教授室を借りることにした。
「香織ちゃんのとこで、短期間で良いから、バイト雇えない?」
入って早々、そんな事を聞かれた。無理ではないだろうが、古川マスターや九条さんに相談してみないことには、どうにもならない。
「昨日の所、時給は良いんだけど、なんか、怖くって…。香織ちゃんの所とかなら、安全そうだなと思って…。」
この間の件もあり、とても安全とは私の口からは言えなかった。それよりも…。
「お金が欲しいって、彩に聞いたけど、何に使うの?」
最初は、はぐらかされたが、何度目かの問いかけで、ぽつりぽつりとだが、ようやっと話始めた。
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