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5章:密か
3 先生
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時刻は一 16時をすぎているが、コーヒーを淹れることにした。藤吉先生は珍しく、プレス式の抽出方法が好きらしく、私が淹れる事になった。
プレスでの抽出は、ハンドドリップよりもテクニックは要らず、時間さえ守れば初心者でも簡単に淹れることが可能。なのだが、先ほどのカラメルの件もあるので、こっそりスマホでタイマーをセットした。九条さんには、こっそり見られた気がしたが、見なかった事にしてくれた。
「ジン殿、今日は授業、なかったんですかい?」
「あるにはありましたが、午前中には終わりました。暇潰しに、本屋に寄っていましたが、目ぼしい物はなかったので、ここに来た次第です。」
先ほど出したお冷を、まるで酒を煽るかの様に、カラカラと音を鳴らし、一口飲んだ。
すると、今井さんがあることに気が付いた。
「あれ?煙草辞めたの?」
指を二本だけ立てて、ふかす様な仕草をした。そう言えば、九条さんも前に、ヘビースモーカーだというのを言っていた気がする。
しかし、今の先生からは煙草の匂いは一切しなかった。
「まぁね。実のところ、健康診断の結果が良くなかったから、最近気を付けるんですよ。」
その時、タイミングを見計らったかのように、私のポケットから、スマホが振動した。プレス機の上の摘まみを押し、カップに注ぐ。
プレス式は他の抽出方法とは異なり、多少の粉が入り混じる。そのため、コクが強く、ミルクを淹れて飲んでも美味しく飲めてしまう。
「時間ぴったりだね。」
さっきの振動音が聞こえてしまったのか、それとも、最初からお見通しだったのか、分からなが、私の出したカップを受け取った。
使った銘柄はクリスタルマウンテン。味よりも香りが強く、すっきりとした飲み応えがある。だが、それはハンドドリップで淹れた場合。プレスした場合など、少なくとも私は飲んだことがない。
そもそも、クリスタルマウンテン自体、高級な豆で、この店でも、希少種や特別種を覗いて、三番目に高い逸品。とてもプレスで飲もうとは思わない。
それをこの人は、美味しそうに飲む。大学でもそうだが、先生が缶コーヒーを飲んでいる所はよく見る光景だ。普段は教卓で、足を組み眼鏡をかけて、何か考え事している様な様子だが、ここに居るときだけは、少々リラックスしている様だ。
カウンターに両肘を付き、左手でコーヒーカップを傾ける様は、九条さんとは違う魅力がある…。と思う…。
「あ、そうだ。」
二口目を啜ったとき、思い出したかの様に、藤吉先生が口を開いた。
「香織ちゃんと今井ちゃんに頼みがあったんだ。」
「お断りします。」
まだ何も説明してないのだが、今井さんがきっぱりと拒否した。
「まだ何も言ってないんだけど…。」
そう言い、ジャケットの内ポケットら一つの封筒を取り出した。その中から出てきたのは、新たにオープンするフレンチスイーツ店の招待券だった。しかも二枚。
「これ、客先から貰ったんだけど、俺甘い物苦手だし、明音さんも忙しいみたいだからさ。行ってきて、感想だけ聞かせてくれるだけで、良いから。」
「タダなら言っても良いわ。」
この人、確か社長だったような…。
「私は、遠慮しておきます。私も甘い物得意じゃないので。」
「そうか…。じゃぁ取り敢えず、今井ちゃんに渡しておく。」
本当の所、甘いものは嫌いじゃない、寧ろ好きだ。だが、好きになったのは、つい最近だった。それまでは、隠していれば、妹に見つかり、取り上げられる。食べていれば、両親にあることない事、告げ口され、こっぴどく叱られた。
だから、防衛本能なのか、それとも無意識なのかは分からないが、甘い物と聞くと、自然と拒絶してしまう。
申し訳ないが、先生の頼みには断るしかなかった。
プレスでの抽出は、ハンドドリップよりもテクニックは要らず、時間さえ守れば初心者でも簡単に淹れることが可能。なのだが、先ほどのカラメルの件もあるので、こっそりスマホでタイマーをセットした。九条さんには、こっそり見られた気がしたが、見なかった事にしてくれた。
「ジン殿、今日は授業、なかったんですかい?」
「あるにはありましたが、午前中には終わりました。暇潰しに、本屋に寄っていましたが、目ぼしい物はなかったので、ここに来た次第です。」
先ほど出したお冷を、まるで酒を煽るかの様に、カラカラと音を鳴らし、一口飲んだ。
すると、今井さんがあることに気が付いた。
「あれ?煙草辞めたの?」
指を二本だけ立てて、ふかす様な仕草をした。そう言えば、九条さんも前に、ヘビースモーカーだというのを言っていた気がする。
しかし、今の先生からは煙草の匂いは一切しなかった。
「まぁね。実のところ、健康診断の結果が良くなかったから、最近気を付けるんですよ。」
その時、タイミングを見計らったかのように、私のポケットから、スマホが振動した。プレス機の上の摘まみを押し、カップに注ぐ。
プレス式は他の抽出方法とは異なり、多少の粉が入り混じる。そのため、コクが強く、ミルクを淹れて飲んでも美味しく飲めてしまう。
「時間ぴったりだね。」
さっきの振動音が聞こえてしまったのか、それとも、最初からお見通しだったのか、分からなが、私の出したカップを受け取った。
使った銘柄はクリスタルマウンテン。味よりも香りが強く、すっきりとした飲み応えがある。だが、それはハンドドリップで淹れた場合。プレスした場合など、少なくとも私は飲んだことがない。
そもそも、クリスタルマウンテン自体、高級な豆で、この店でも、希少種や特別種を覗いて、三番目に高い逸品。とてもプレスで飲もうとは思わない。
それをこの人は、美味しそうに飲む。大学でもそうだが、先生が缶コーヒーを飲んでいる所はよく見る光景だ。普段は教卓で、足を組み眼鏡をかけて、何か考え事している様な様子だが、ここに居るときだけは、少々リラックスしている様だ。
カウンターに両肘を付き、左手でコーヒーカップを傾ける様は、九条さんとは違う魅力がある…。と思う…。
「あ、そうだ。」
二口目を啜ったとき、思い出したかの様に、藤吉先生が口を開いた。
「香織ちゃんと今井ちゃんに頼みがあったんだ。」
「お断りします。」
まだ何も説明してないのだが、今井さんがきっぱりと拒否した。
「まだ何も言ってないんだけど…。」
そう言い、ジャケットの内ポケットら一つの封筒を取り出した。その中から出てきたのは、新たにオープンするフレンチスイーツ店の招待券だった。しかも二枚。
「これ、客先から貰ったんだけど、俺甘い物苦手だし、明音さんも忙しいみたいだからさ。行ってきて、感想だけ聞かせてくれるだけで、良いから。」
「タダなら言っても良いわ。」
この人、確か社長だったような…。
「私は、遠慮しておきます。私も甘い物得意じゃないので。」
「そうか…。じゃぁ取り敢えず、今井ちゃんに渡しておく。」
本当の所、甘いものは嫌いじゃない、寧ろ好きだ。だが、好きになったのは、つい最近だった。それまでは、隠していれば、妹に見つかり、取り上げられる。食べていれば、両親にあることない事、告げ口され、こっぴどく叱られた。
だから、防衛本能なのか、それとも無意識なのかは分からないが、甘い物と聞くと、自然と拒絶してしまう。
申し訳ないが、先生の頼みには断るしかなかった。
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