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4章:調べ
3 買足Ⅲ
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ドリッパーにも種類があり、形状、素材、穴の数など、様々だ。それを支える為のドリッパースタンドは、必ず欲しいと言う物でもない。大体は見た目重視で使う人や、一度に大量に淹れる人には欲しい物かもしれない。
私自身、スタンドは使わず、直接カップに淹れるタイプなので、それ程欲しいわけでもない。
でも、このスタンド一式は妙に魅力的だった。スタンドの部分は長方形の箱型で黒い木でできている。サーバーの持ち手に部分にも同じ気が使われているらしく、同じ色だ。
ドリッパーはガラスでできた円錐型で、それなりに重量がある。表面の溝はダイヤ状でガラス製にしてはかなり珍しいタイプだ。
サーバーは、円錐状はしているものの、どちらかと言うと、ビーカーに近い。こちらもガラスでできており、表面にメモリの様に三本等間隔で線が引かれている。
よく見れば、それぞれのパーツの形状が違っていたり、スタンドの角の部分は丸い曲線状に成っている。それなのに、全体的にみると四角く、色も透明なガラスと黒い木材の為、統一感がある。
「これ幾ら?」
いつの間にか隣から覗き込んでいた新庄さんが彰さんに聞いた。
「まけて、これ。」
指を五本立てた。骨董品自体、どれくらいの値段がするか見当もつかないが、千倍な訳がない。
「いえ、欲しいわけではないです。ちょっと気になっただけですので、お構いなく…。」
「じゃあ俺が買おうかな。」
店の奥から、これまた馴染みある声がした。新庄さんもその声の主に少し、驚いていた。理由は、本来ならこんな平日に、片道二時間かけて、しかも、骨董品屋に居るとは誰も思いまい。月島さんは片手に細長いドライバーとゴムハンマーを持っていた。
それらを彰さんに手渡し、ドリッパースタンドを手に取る。
「黒檀でできてるね。」
「コクタン?」
新庄さんがオウム返しの様に聞き返した。
「そう。堅くて重みがある木材で加工がしづらい。でも、一度加工してしまえば丈夫なものを作ることができる。本来なら、仏壇や仏具とかにも使われるね。
ドリッパーの方は江戸切子だね。無色の物は最近になって人気が出てきてる。ただ、ドリッパーが江戸切子となると、かなり珍しいね…。」
淡々と説明する月島さんに思わず関心してしまった。
「それより、棚の組み立てとは笑ったね。そう言うの、九条とかに頼めば良かったのに。」
「休みの日まで手を煩わせる訳にはいきませんので。」
「なるほどね…。」
そう言い残して、また店の奥に戻って行った。
その時、遠くの方で雷が鳴った。彰さんが外を覗き、戸を閉めた。
「一雨来るな…。取り敢えず上がりな?そこに居ると、冷えるよ。」
その言葉に甘えて、居間に上がらせてもらった。
「そういえば、月島さんはどうしてここに来てたんですか?」
「そのうち分かるさ。」
新庄さんの質問に彰さんが勿体ぶった様に答えた。
戸や窓を全て閉め終えた、丁度の時に雨粒が地面を叩き始めた。六月とは言え、今日までまとまった雨は降っていない。表の通りには、急な雨で走って行く人やコンビニに駆け込む人など、様々だ。
新庄さんが髪を手櫛で解かしている。どうやら湿気に弱い髪質らしい。彰さんも少し濡れた商品を念入りに拭いていた。
私は嫌いじゃない。濡れるのも良いが、雨音が好きだった。聞いていると、暫くの間、考え事しなくて済むほど、ボーっとできた。母と妹が出かけている間、こっそり押し入れを抜け出して、リビングの窓から雨を眺めるのが、この時期の密かな楽しみだった。
奥の方からは良い香りが漂ってきた。
店先の方から戸がガラガラと開く音がした。
「いや~。予報では、一日晴れだったのになぁ。」
「お、来たな。お嬢ちゃんがお待ちだ。」
「お嬢ちゃん?」
彰さんから受け取ったタオルで肩と頭を拭いていた。私より、彼の方が驚いていた。珍しく、リュックを背負っている所を見ると、大学から帰ってきたところなのだろう。手には、トートバッグの様な物を持っていた。中からは瓶がぶつかり合っている音がする。
彰さんが粗方説明してくれた。
「そっか…。じゃあ香織ちゃんたちも、食べて行きな?」
私自身、スタンドは使わず、直接カップに淹れるタイプなので、それ程欲しいわけでもない。
でも、このスタンド一式は妙に魅力的だった。スタンドの部分は長方形の箱型で黒い木でできている。サーバーの持ち手に部分にも同じ気が使われているらしく、同じ色だ。
ドリッパーはガラスでできた円錐型で、それなりに重量がある。表面の溝はダイヤ状でガラス製にしてはかなり珍しいタイプだ。
サーバーは、円錐状はしているものの、どちらかと言うと、ビーカーに近い。こちらもガラスでできており、表面にメモリの様に三本等間隔で線が引かれている。
よく見れば、それぞれのパーツの形状が違っていたり、スタンドの角の部分は丸い曲線状に成っている。それなのに、全体的にみると四角く、色も透明なガラスと黒い木材の為、統一感がある。
「これ幾ら?」
いつの間にか隣から覗き込んでいた新庄さんが彰さんに聞いた。
「まけて、これ。」
指を五本立てた。骨董品自体、どれくらいの値段がするか見当もつかないが、千倍な訳がない。
「いえ、欲しいわけではないです。ちょっと気になっただけですので、お構いなく…。」
「じゃあ俺が買おうかな。」
店の奥から、これまた馴染みある声がした。新庄さんもその声の主に少し、驚いていた。理由は、本来ならこんな平日に、片道二時間かけて、しかも、骨董品屋に居るとは誰も思いまい。月島さんは片手に細長いドライバーとゴムハンマーを持っていた。
それらを彰さんに手渡し、ドリッパースタンドを手に取る。
「黒檀でできてるね。」
「コクタン?」
新庄さんがオウム返しの様に聞き返した。
「そう。堅くて重みがある木材で加工がしづらい。でも、一度加工してしまえば丈夫なものを作ることができる。本来なら、仏壇や仏具とかにも使われるね。
ドリッパーの方は江戸切子だね。無色の物は最近になって人気が出てきてる。ただ、ドリッパーが江戸切子となると、かなり珍しいね…。」
淡々と説明する月島さんに思わず関心してしまった。
「それより、棚の組み立てとは笑ったね。そう言うの、九条とかに頼めば良かったのに。」
「休みの日まで手を煩わせる訳にはいきませんので。」
「なるほどね…。」
そう言い残して、また店の奥に戻って行った。
その時、遠くの方で雷が鳴った。彰さんが外を覗き、戸を閉めた。
「一雨来るな…。取り敢えず上がりな?そこに居ると、冷えるよ。」
その言葉に甘えて、居間に上がらせてもらった。
「そういえば、月島さんはどうしてここに来てたんですか?」
「そのうち分かるさ。」
新庄さんの質問に彰さんが勿体ぶった様に答えた。
戸や窓を全て閉め終えた、丁度の時に雨粒が地面を叩き始めた。六月とは言え、今日までまとまった雨は降っていない。表の通りには、急な雨で走って行く人やコンビニに駆け込む人など、様々だ。
新庄さんが髪を手櫛で解かしている。どうやら湿気に弱い髪質らしい。彰さんも少し濡れた商品を念入りに拭いていた。
私は嫌いじゃない。濡れるのも良いが、雨音が好きだった。聞いていると、暫くの間、考え事しなくて済むほど、ボーっとできた。母と妹が出かけている間、こっそり押し入れを抜け出して、リビングの窓から雨を眺めるのが、この時期の密かな楽しみだった。
奥の方からは良い香りが漂ってきた。
店先の方から戸がガラガラと開く音がした。
「いや~。予報では、一日晴れだったのになぁ。」
「お、来たな。お嬢ちゃんがお待ちだ。」
「お嬢ちゃん?」
彰さんから受け取ったタオルで肩と頭を拭いていた。私より、彼の方が驚いていた。珍しく、リュックを背負っている所を見ると、大学から帰ってきたところなのだろう。手には、トートバッグの様な物を持っていた。中からは瓶がぶつかり合っている音がする。
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