レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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3章:違い

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 身長は彩より少しだけ高い程度で、そんなに変わらない。走って来たのか、肩を弾ませている。
 「古川さん、お水一杯…。」
 今井さんの隣に腰を落ち着かせる。
 「何も走ってこなくても良いのに…。」
 「遅刻はいけませんよ。」
 受け取った水を一気飲みする。一息ついたところで、私に気付いたのか、立ち上がり挨拶した。
 「初めまして、香織さんですね?新庄明音です。本当はもっと早く挨拶しに来ればよかったですが、なかなか都合が合わなくて…。」
 「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
 私も釣られて、軽く会釈する。
 「彼女は職業柄、色々な市場や食品関係の方と繋がりがありますので、当日の食材調達はお任せいたします。」
 「はい!何でも言って下さい。流石に高級品は難しいですが、言って頂ければ出来るだけ用意いたします。」
 新庄さんが元気よく返事する。
 「あれ?そういえば、ジンさんは?」
 ぐるっと、店内に居るメンバーを見て、一人足りないことに気付いたのか、今井さんに聞いた。さっき、九条さんが言ったセリフを真似て答えた。
 「え~。私だって無理矢理予定空けて来たのに…。」
 気が抜けた様にカウンターに伏せる。
 「てっきりご一緒に来るのかと…。」
 「途中までは一緒でした。私もてっきり先に来てるのかと…。」
 「結局全員揃わずか…。」
 九条さんが新庄さんの前にコーヒーを置く。
 
 それから、改めてそれぞれの役割やルールを説明していく。
常時テントに入らないスタッフはカウントしないらしく、新庄さんやジンさんは頭数には含まれない。客寄せとしてのスタッフはカウントすること。当然だが、隣近所の店舗の妨害行為は禁止。万が一あった場合は、ペナルティが課せられる事など…。
「当日のユニフォームはあたしが提供するから、期待してて。新人お三方は後で採寸するから、残ってね。」
 「採寸…。」
 彩が嫌な顔をしたのを私は見逃さなかった。
 「あたし等は当日使う分のテーブルやら掻き集めるとしやす。何かあれば、彰に言って下せぇ。」
 「大臣、ちょっと相談が…。」
 各々がそれぞれ相談しだした。ルールとして、お酒の販売は禁止されているため、リキュールやワイン等は当然直接出すことはできない。そうなると、必然的に私たちもコーヒー一択になってしまう。
 「ウチはどうします?せっかくだから香織ちゃんもできるやつが良いよね。」
 私もコーヒーを淹れるくらいはできるが、この二人に比べたら、文字通り天地ほどの差がある…。
 「でしたら、良いものがございますよ。」

 古川マスターが私と九条さんを倉庫に来るように手招きする。倉庫の中は一斗缶ほどの大きさの樽が所狭しと並んでいる。壁かけの棚にはマグカップより少し大きいくらいの瓶がこれまた、びっしりと並んでいる。樽の中には、代表的な銘柄のコーヒー豆とブレンド等が詰まっている。瓶の中にはこの間のフレーバーコーヒーや、なかなか手に入らない希少なものや高価な豆が入っている。
 スペースは大体十畳ほどの広さで、反対側の棚には、ブランデーやジン、ウォッカなどのカクテルに使われる洋酒が並べられている。
 その一番端に某通販会社のロゴが入った真新しい段ボール箱が置かれていた。前から気にはなっていた。古川マスターがその段ボール箱の前にしゃがみ、九条さんに持つ様に促す。
「前から気になっていたが、これは何ですか?」
九条さん気になっていた様で、古川マスターに訊ねる。
 「開けてからのお楽しみです。」

 カウンター内の床に置き、一息つくと段ボールを開ける。中からは、発泡スチロールで固定された黒色の箱の様な物が出てきた。
 「エスプレッソマシンじゃないですか。」
 「買ったは良いものの、なかなか使うタイミングがなく、倉庫の肥やしになっていました。」
 「なるほど、これなら香織ちゃんでもやれそうだね。」
 箱から取り出した、説明書を見ながら九条さんも納得する。
 「でも夏の砂浜でエスプレッソは流石にどうかと思うけど…。」
 今井さんが、カウンター越しに覗き込みながら、反論する。
確かに、幾ら好きでも夏の暑い砂浜でエスプレッソを飲む気にはならない…。アイスにするというなら、まだ可能性はあるが、そこまでしてこれを持っていくよりだったら、マキネッタをいくつか持っていた方が良い気がする。
「そこは、僕らの腕の見せ所ですね…。」
二人のバリスタが、頼もしく頷く。

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