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3章:違い
8 祭典
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「共通点?」
「そう。」
三人とも、考え込む…。しかし、皆、答えが出ない…。
しばらくすると、一条さんがため息をつく。
「答えは、全て事故死にも見せられること。遭難・転落・水死・転倒。それぞれに事故死と判断されても不思議はない。それなのに、山中に川の水ではなく、海水を使った殺人を臭わせる方法で、亡くなっている。これを事故ではなく、他殺と考えざるを得ない状況になっている。」
「だから、それでどうして、死因の方が過去を記してることになる。」
大臣が食って掛かる。大臣の言う通り、それだけでは、理由になっていない気がする。しかし、一条さんがまたしても、深いため息をする。
「山中で起きたのは、海水を利用した溺死。これは、遺体が海に居たことを印象付けたかった。死ぬ前は当然過去になる。他殺ここまで、他殺なら、そんな二度手間に成る事、しない。海で殺害したなら、そのままにしておきたい。なのに、山中にある。これは、周到すぎる。つまり、不自然すぎる。」
「なるほど…。すると、貴方様はどの様なお考えで?」
古川マスターが彼に訊ねる。
「今回のこの松尾芭蕉の事件は、全てが他殺に見せかけた、集団自殺。
一件目は、海岸沿いの岩場で起きた、撲殺事件。見つかった俳句は、涼しさや ほの三か月の 羽黒山。
二件目は、登山ルートの途中に溺死した遺体。俳句は、五月雨をあつめて早し 最上川。
三件目は、川沿い付近で起きた、転落死と思われる事件。崖か岩の上には争った形跡があった。見つかった俳句は、あつみ山や 吹浦かけて 夕すずみ。
全部で三件起きているとみてるが、どうだ?」
一瞬、静まり返った後、大臣が、ガハハと笑った。
「いや~、流石は旦那、敵わんなぁ。全部ドンピシャや。」
「でもどうして自殺なんか…。」
「それは、刑事でもない限り、俺でも分からないし、俺が関わっちゃいけない。」
「そりゃそうだ。せっかくや、昨日のあれで、コーヒー淹れてくれ。」
大臣がコーヒーを待っている間、色んな土産話を聞かされた。北海道での鍋の話。広島で置き引きにあった話。新幹線を乗り過ごした話等々…。そんな話を聞いて時、格子戸が開いた。今井さんが中に入ってきた。
「あら二代目。帰ってたの?」
「おぉ!今井のお嬢、お久しゅうございます。」
「お久しぶり。それより、今年も手に入ったわよ。『サマーダイニング』の出店許可証。」
今井さんが封筒を古川マスターに差し出す。
「今年も、熱くなりそうですなぁ。」
「あぁ、それに今年は強力な助っ人もいるからな…。」
「何ですか?そのサマーダイニングって。」
何故か大臣も含めて、四人で盛り上がる。
「千葉の海辺で行われる、海の家の祭典です。私たちの様な一般の飲食店でも申し込み可能ですが、初回の場合審査があります。ちなみに私たちは、今年で四度目の出店となります。」
「チームの人数は最大で二十人まで。テントや外装は運営が面倒見てくれるけど、大体の店舗は自分たちでやるのが主流だね。僕らも、フルメンバーで行くよ。」
九条さんの声色もいつもと少し違う。
「大臣さんも出るんですか?」
「そうとも、と言っても俺らは基本裏方でさぁ。」
「裏方?」
「えぇ、大臣たちには店舗の設営とテーブル等の貸し出しをしてもらっています。」
「せっかくだし、香織ちゃんの為にも次の土曜日打ち合わせしない?」
今井さんが提案に全員が賛同した。
「今回、新人が三人居るからそれが良いね。」
日は過ぎ、もう土曜日になってしまった。れとろは定休日だが、中からは灯りが漏れていた。
一二時頃に集合なのだが、私は例のごとく、十一時頃には着いてしまった。店の鍵が開いていると言う事は、九条さんか古川マスターのどちらかがもう来ていることになる…。
しかし、店内からは物音ひとつしない。あの二人の事だから、鍵を閉め忘れたという事は先ずない。店内を見回すが、誰もいない…。
しかし、カウンターの一番奥に黒いマグカップと皿が一つずつ置かれていた。店の食器等は大体覚えているが、この黒いマグカップは見覚えがなかった。縁の部分は茶色い焼き色が付いており、味がある。取手は四角く本体は真円柱で武骨なフォルムをしている。特に柄や模様がある訳でもない質素な作りだった。どこかの棚の中に仕舞われていた記憶もない。となると、誰かの私物になる。その隣には、今朝の新聞も置かれていた。パンでも焼いたのか、香ばしい香りと皿にパンのカスが少し散らかっている。
カウンター奥の休憩室を覗くと、ソファに横になる彼が居た。
「そう。」
三人とも、考え込む…。しかし、皆、答えが出ない…。
しばらくすると、一条さんがため息をつく。
「答えは、全て事故死にも見せられること。遭難・転落・水死・転倒。それぞれに事故死と判断されても不思議はない。それなのに、山中に川の水ではなく、海水を使った殺人を臭わせる方法で、亡くなっている。これを事故ではなく、他殺と考えざるを得ない状況になっている。」
「だから、それでどうして、死因の方が過去を記してることになる。」
大臣が食って掛かる。大臣の言う通り、それだけでは、理由になっていない気がする。しかし、一条さんがまたしても、深いため息をする。
「山中で起きたのは、海水を利用した溺死。これは、遺体が海に居たことを印象付けたかった。死ぬ前は当然過去になる。他殺ここまで、他殺なら、そんな二度手間に成る事、しない。海で殺害したなら、そのままにしておきたい。なのに、山中にある。これは、周到すぎる。つまり、不自然すぎる。」
「なるほど…。すると、貴方様はどの様なお考えで?」
古川マスターが彼に訊ねる。
「今回のこの松尾芭蕉の事件は、全てが他殺に見せかけた、集団自殺。
一件目は、海岸沿いの岩場で起きた、撲殺事件。見つかった俳句は、涼しさや ほの三か月の 羽黒山。
二件目は、登山ルートの途中に溺死した遺体。俳句は、五月雨をあつめて早し 最上川。
三件目は、川沿い付近で起きた、転落死と思われる事件。崖か岩の上には争った形跡があった。見つかった俳句は、あつみ山や 吹浦かけて 夕すずみ。
全部で三件起きているとみてるが、どうだ?」
一瞬、静まり返った後、大臣が、ガハハと笑った。
「いや~、流石は旦那、敵わんなぁ。全部ドンピシャや。」
「でもどうして自殺なんか…。」
「それは、刑事でもない限り、俺でも分からないし、俺が関わっちゃいけない。」
「そりゃそうだ。せっかくや、昨日のあれで、コーヒー淹れてくれ。」
大臣がコーヒーを待っている間、色んな土産話を聞かされた。北海道での鍋の話。広島で置き引きにあった話。新幹線を乗り過ごした話等々…。そんな話を聞いて時、格子戸が開いた。今井さんが中に入ってきた。
「あら二代目。帰ってたの?」
「おぉ!今井のお嬢、お久しゅうございます。」
「お久しぶり。それより、今年も手に入ったわよ。『サマーダイニング』の出店許可証。」
今井さんが封筒を古川マスターに差し出す。
「今年も、熱くなりそうですなぁ。」
「あぁ、それに今年は強力な助っ人もいるからな…。」
「何ですか?そのサマーダイニングって。」
何故か大臣も含めて、四人で盛り上がる。
「千葉の海辺で行われる、海の家の祭典です。私たちの様な一般の飲食店でも申し込み可能ですが、初回の場合審査があります。ちなみに私たちは、今年で四度目の出店となります。」
「チームの人数は最大で二十人まで。テントや外装は運営が面倒見てくれるけど、大体の店舗は自分たちでやるのが主流だね。僕らも、フルメンバーで行くよ。」
九条さんの声色もいつもと少し違う。
「大臣さんも出るんですか?」
「そうとも、と言っても俺らは基本裏方でさぁ。」
「裏方?」
「えぇ、大臣たちには店舗の設営とテーブル等の貸し出しをしてもらっています。」
「せっかくだし、香織ちゃんの為にも次の土曜日打ち合わせしない?」
今井さんが提案に全員が賛同した。
「今回、新人が三人居るからそれが良いね。」
日は過ぎ、もう土曜日になってしまった。れとろは定休日だが、中からは灯りが漏れていた。
一二時頃に集合なのだが、私は例のごとく、十一時頃には着いてしまった。店の鍵が開いていると言う事は、九条さんか古川マスターのどちらかがもう来ていることになる…。
しかし、店内からは物音ひとつしない。あの二人の事だから、鍵を閉め忘れたという事は先ずない。店内を見回すが、誰もいない…。
しかし、カウンターの一番奥に黒いマグカップと皿が一つずつ置かれていた。店の食器等は大体覚えているが、この黒いマグカップは見覚えがなかった。縁の部分は茶色い焼き色が付いており、味がある。取手は四角く本体は真円柱で武骨なフォルムをしている。特に柄や模様がある訳でもない質素な作りだった。どこかの棚の中に仕舞われていた記憶もない。となると、誰かの私物になる。その隣には、今朝の新聞も置かれていた。パンでも焼いたのか、香ばしい香りと皿にパンのカスが少し散らかっている。
カウンター奥の休憩室を覗くと、ソファに横になる彼が居た。
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