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3章:違い
7 霊山
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「で、これがその山の様子。」
大臣が懐から何枚か写真を取り出す。写真は少し薄暗い、森の様な場所を移していた。植物に詳しいわけではないが、写っている大半の木々が杉だということくらいは分かった。地面は土が見え、所々に枯れ葉が積もっていた。九条さんがその写真を一枚一枚じっくりと観察していく。
「これは?」
一枚の写真で手が止まった。他の写真と変わらない様な気もするが、彼は何かを見つけたらしい。
「ここ。」
写真の端の方を指さす。うっすらと、灰色の物が見える。石にも見えなくもない。
「それ石段ではありませんか?」
古川マスターが目を細め、写真を覗き込む。
「あぁ、多分そうだ。そこ行くときに、石段登って来たんだよ。確か数百段登ったところだから、結構しんどかったな…。」
「数百段って、全部で何段あるんですか?」
「山形の庄内地区で石段のある山で有名なのは、出羽三山の一角、羽黒山くらいでしょう。確か、石段の数は二千四百段程あると聞いています。」
古川マスターが少しだけ生えている顎髭を指先で触りながら答えた。
「聞いたことあるな、確か霊山でも有名だったな…。」
「レイザン?」
「響きは少々おどろおどろしいですが、神聖な山であったり、神社が立てられていたりと、一種のパワースポットとしても近年は人気になっていますね。」
「有名な所だと、青森の恐山。石川の白山。富士山なんかもそうだね。」
「そんなところで、こう言った事件が起きると、祟りなんじゃねぇかって、地元の人達は噂してる輩も多くてな。」
さらに、九条さんが写真を捲っていく。
「で、これが例の最上川の句だ。」
またしても、写真を一枚取り出す。達筆だったが、かろうじて私でも読めるくらいだ。
「何か分かります?」
「いや、さっぱりだ。」
期待していたわけではないが、少し肩を落とした。
「でも、これ続きがあるんじゃないか?」
いつの間にか、目つきが鋭くなっていた。この雰囲気は間違いない、一条さんだった。
「やっぱり旦那も、気になったか。」
「まぁな。」
二人で納得した様に頷き合う。古川マスターも特に気にしてない用だった。分かっていないのは、私だけ…。
「あの、続きって何ですか?」
「香織ちゃんは奥の細道って知ってる?」
「それくらいは知ってます。あの松尾芭蕉のですよね?」
「そう、この句はその奥の細道の山形で読まれた句。当然その続きや、前の句も存在する。この句は、最上川という川を題材に読んだ句。なのに、死亡原因は海水による溺死。この句の様に川の水を使うのが、好ましい。しかも、場所は山の中。不自然にも程がある。」
一条さんが一通り見終わった写真をレジ下にあった封筒に入れる。
「これが、この山中事件の前にあった…。」
「場所は海。死因は頭部陥没による脳挫傷といったところか?」
一条さんが写真を取り出そうとしていた大臣を制し、そう述べた。
「流石だな、まさか死因まで当てるとはな…。」
「出羽三山。それで思い出してね。出羽三山の三つの霊峰、月山・羽黒山・湯殿山。この三つはそれぞれ、過去・現在・未来を表すとされている。
それを、今回の事件に当てはめてみた。死因が過去。死そのものが現在。俳句が未来。」
一条さんがコーヒーを淹れなおし、更に続ける。
「死因が海水による溺死となると、前の現場は海辺になる。海辺で、溺死以外を選ぶとなると、転落か殴打しかない。でも、転落だった場合、遺体が見つからないケースが多い。だから消去法的に…。」
「でも、どうして、死因の方が過去だって、わかったんだ?」
大臣が問う。それに答えたのは、一条さんではなく、古川マスターだった。
「山形で読まれた句の中で、『日本海』を読んだ句がないのです。先ほどの写真の句は、『最上川』と具体的な川の名を示しています。でしたら、単純に海の句を探すのが一般的。違いますかな?」
少々、自信ありげに彼の方に向き直る。
「ちょっと、違うね。」
自分で淹れたコーヒーを啜る様に飲む。
「川・山・海、この三つに共通する物って何だと思う?」
大臣が懐から何枚か写真を取り出す。写真は少し薄暗い、森の様な場所を移していた。植物に詳しいわけではないが、写っている大半の木々が杉だということくらいは分かった。地面は土が見え、所々に枯れ葉が積もっていた。九条さんがその写真を一枚一枚じっくりと観察していく。
「これは?」
一枚の写真で手が止まった。他の写真と変わらない様な気もするが、彼は何かを見つけたらしい。
「ここ。」
写真の端の方を指さす。うっすらと、灰色の物が見える。石にも見えなくもない。
「それ石段ではありませんか?」
古川マスターが目を細め、写真を覗き込む。
「あぁ、多分そうだ。そこ行くときに、石段登って来たんだよ。確か数百段登ったところだから、結構しんどかったな…。」
「数百段って、全部で何段あるんですか?」
「山形の庄内地区で石段のある山で有名なのは、出羽三山の一角、羽黒山くらいでしょう。確か、石段の数は二千四百段程あると聞いています。」
古川マスターが少しだけ生えている顎髭を指先で触りながら答えた。
「聞いたことあるな、確か霊山でも有名だったな…。」
「レイザン?」
「響きは少々おどろおどろしいですが、神聖な山であったり、神社が立てられていたりと、一種のパワースポットとしても近年は人気になっていますね。」
「有名な所だと、青森の恐山。石川の白山。富士山なんかもそうだね。」
「そんなところで、こう言った事件が起きると、祟りなんじゃねぇかって、地元の人達は噂してる輩も多くてな。」
さらに、九条さんが写真を捲っていく。
「で、これが例の最上川の句だ。」
またしても、写真を一枚取り出す。達筆だったが、かろうじて私でも読めるくらいだ。
「何か分かります?」
「いや、さっぱりだ。」
期待していたわけではないが、少し肩を落とした。
「でも、これ続きがあるんじゃないか?」
いつの間にか、目つきが鋭くなっていた。この雰囲気は間違いない、一条さんだった。
「やっぱり旦那も、気になったか。」
「まぁな。」
二人で納得した様に頷き合う。古川マスターも特に気にしてない用だった。分かっていないのは、私だけ…。
「あの、続きって何ですか?」
「香織ちゃんは奥の細道って知ってる?」
「それくらいは知ってます。あの松尾芭蕉のですよね?」
「そう、この句はその奥の細道の山形で読まれた句。当然その続きや、前の句も存在する。この句は、最上川という川を題材に読んだ句。なのに、死亡原因は海水による溺死。この句の様に川の水を使うのが、好ましい。しかも、場所は山の中。不自然にも程がある。」
一条さんが一通り見終わった写真をレジ下にあった封筒に入れる。
「これが、この山中事件の前にあった…。」
「場所は海。死因は頭部陥没による脳挫傷といったところか?」
一条さんが写真を取り出そうとしていた大臣を制し、そう述べた。
「流石だな、まさか死因まで当てるとはな…。」
「出羽三山。それで思い出してね。出羽三山の三つの霊峰、月山・羽黒山・湯殿山。この三つはそれぞれ、過去・現在・未来を表すとされている。
それを、今回の事件に当てはめてみた。死因が過去。死そのものが現在。俳句が未来。」
一条さんがコーヒーを淹れなおし、更に続ける。
「死因が海水による溺死となると、前の現場は海辺になる。海辺で、溺死以外を選ぶとなると、転落か殴打しかない。でも、転落だった場合、遺体が見つからないケースが多い。だから消去法的に…。」
「でも、どうして、死因の方が過去だって、わかったんだ?」
大臣が問う。それに答えたのは、一条さんではなく、古川マスターだった。
「山形で読まれた句の中で、『日本海』を読んだ句がないのです。先ほどの写真の句は、『最上川』と具体的な川の名を示しています。でしたら、単純に海の句を探すのが一般的。違いますかな?」
少々、自信ありげに彼の方に向き直る。
「ちょっと、違うね。」
自分で淹れたコーヒーを啜る様に飲む。
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