レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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3章:違い

6 土産

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 車を走らせて三~四〇分ほど掛かるらしいが、流石地元の人ということもあり、農道やショートカットコースを駆使して、二〇分ほどで目的の大瀧さんの自宅に着いた。徹が事前に連絡を入れていたらしく、玄関前で出迎えてくれていた。
 「こんな時間に申し訳ない、大神です。」
 「大瀧です。徹君から聞いてます。どうぞ、中へ。」
 気のよさそうな田舎の爺さんと言った印象だった。早速居間に通された。六畳半ほどの部屋だったが、真ん中にあるテーブルを取り囲む様に、段ボール箱や饅頭が入っていたと思われる貼箱、クッキーの缶などが山積みになっていた。しかし、この空間はあたしにとっては落ち着くものだった。
 「悪いね、散らかっていて。」
 あたしの様子に気が付いたのか、それとも決まり文句なのかは分からないが、そう言ってのけた。書院甲板に乗っている、湯沸かしポットから急須にお湯を注いでいた。
 「いやぁ何を仰る。あたしの自宅の部屋もこんなんでさぁ。」

 散らかっていると言っても、大きく分けて二通りある。一つは、ただ単純に片付けができなく、着物やゴミなどが散乱していて、物にも統一性がないぐちゃぐちゃな状態な事。世間一般的には、『ごみ屋敷』と言われるところだろう。
 もう一つは、物に統一性がありごちゃごちゃしている状態な事。さっきの古物商の玄関先の様な陶器などの骨董品。受験生の机の上の様な参考書などの書物。こう言った散らかし方をしている人は、本人がどこに何があるか把握している場合が多い。少なくとも、あたしもそうだ。そう何回も家内に話したが、寝耳に水だった。
 「ちょっと、大神さん、置いてくなんて酷いですよ…。」
 またしても、パタパタと忙しなく駆け寄ってくる。昔はそこそこ落ち着きない娘だと思っていたが、大きくなっても変わらなさそうだ…。
 「あぁ、すまんすまん。」
 『もー』と牛の様な、声を出す。
 「大神さん、単刀直入に言うと、お前さんの言うような物は、俺の耳にも入ってませんぜ。」
 大瀧の爺さんが二人分の湯飲みを差し出しながら、話し始めた。
 「そんな話聞いていたら、俺も今こうしちゃおれんからな。これは一本食わせられましたなぁ。」
 「やっぱりか…。そんな気はしてたんだよな…。」
 思わず頭を抱えた。まだ山形に来てから、数時間しかたっていないが、もう要件を済ませてしまった…。

 「まぁ、そう落ち込みなさんな。どれ、来たついでだ、土産物ではなく、話を一つ持ち帰るってのはどうだ?」
 「というと?」
 亜樹ちゃんも話に参加したかったのか、首をかしげる。
 「亜樹ちゃんはニュースとかで見たかもしれないが、この山の中腹で溺死体が発見された。」
 「それが、どうしたってんだ。」
 「妙なんだよ。あの山の中に川や池溺死に繋がる様な場所は沢山ある。それにも関わらず、その遺体が見つかった場所は、水気のない場所でさぁ…。しかも、警察の話だと、肺に溜まっていた水は、どうやら海水らしいんだよ。」
 爺さんが腕組みしながら話す。
 「確かにそりゃ妙だな…。」
 「気味が悪いですよね…。」
 「それだけじゃねぇんだ…。」
 茶箪笥の中の引き出しを開け、一枚のはがきサイズの紙を取り出す。
 「これが胸のポケットの中に入っていたらしいんだ。」
 その紙にはこう書かれていた。
  
 『五月雨を
     集めてはやし
         最上川』
 
有名な松尾芭蕉の句だ。梅雨の雨が、最上川に集まり水かさが増し、流れが速くなっている様を呼んだ句だ。
「何だってこんなものが。ってか何で、あんたもが持ってんだよ。」
「これは、写しさだ。流石に現物じゃない。んでもって、俺は、元刑事だ昔の仲間と今でもつながってて、これを教えてもらったんだよ。」
「お、大瀧さん刑事さんだったんですか?」
あたしより、亜樹ちゃんの方が早く反応した。
「昔の話さ。」
「なるほどな…。じゃ、あたしの知り合いにその話聞かせてやりたいんで、明日その現場連れてってくれ。」
 「構わねぇが、お前さんも気になったかい?」
 「気になったって、何にですか?」
 亜樹ちゃんが不安そうにな顔で、聞きだす。
 「あぁ、ちょっとな。」
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