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次の日も私は、お店に来ていた。昨日の雨も朝方には、完全に止み、夏の匂いが感じられるほどの暑さだった。
店内は冷房が効いたが、万年長物のインナーを着ている私とっては、冷房は苦手だった…。
「古川さん、その箱何ですか?」
開店準備のため、本日のおすすめメニューの看板を手書きしていた時、古川マスターが段ボール箱を抱えて、休憩室から出てきた。
「九条様が来てから、お見せしようと思います。彼の方が、多分扱い方を心得ていると、思いますので。」
少し自慢げに話す、古川マスターを見るのは初めてだった。
「そうですか…。それはそうと、おすすめはどうします?」
「今日は、暑いですから、グァテマラにしましょう。一昨日、SHBも入荷できましたし。」
SHB(ストリクトリー・ハードビーン)というのは、コーヒーの銘柄・『グァテマラ』の品質格付けの最高峰に位置づけられ、標高一三五〇メートル以上の高地で収穫される、上質の珈琲である。
フルーツの様な酸味とチョコレートの様な甘味が特徴的な豆で、深入りしても甘味が潰れにくいことから、ブレンドのベースとしても使われる。
アイスにしてもスッキリとした味わいがあるため、この時期にはぴったりのコーヒーである。
「飲みたそうな顔していますね?」
古川マスターが優しく聞いてきた。
「まだ、開店前ですので、一杯くらい構いませんよ。」
「じゃぁ、お言葉に甘えます。」
このお店の売りは、メニューや銘柄が方なだけではない。煎り度合や抽出方法も指定できる。
煎り方は『浅』『中』『深』の三通りだが、実際は八段階ある。
そのため、常連や通の方になると、事前に指定してくることもある。
また、裏メニューって程でもないが、要望に合わせてオリジナルのブレンド作ることもあり、時期やタイミングによっては、希少な豆が入荷することがある。
コーヒーに困ったらここに来れば、解決するほど、『珈琲喫茶』とは名ばかりではない。
古川マスターは棚から、ステンレス製の蓋つきのタンブラーを取り出した。
それにしても、暑い…。看板を置くため、店外に出た。大通りからは、ビル一本分離れているとは言え、車が通るたびに、熱風が体をかすめる。
急いで、店内に戻った。
「暑いですね…。」
「えぇ、昨日降った雨のせいで、湿度も上がっていますからね…。」
そういうと、タンブラー差し出してきた。
「温目に入れましたので、お好きな時に。」
「ありがとうございます。」
そうこうしている間に、格子戸が開いた。
「いらっしゃいませ。」
振り返りながら、入り口の方を見た。
「香織ちゃん、来たよ~。」
入り口に立っていたのは、彩と寧々だった。
「寧々、彩!きてくれたんだ!」
驚いて、少し大きい声を出してしまった。
「香織様のお知り合いですか?」
古川マスターがカウンターから、こちらを覗いた。
「はい、大学の友人です。」
「そうでしたか。では、カウンターにどうぞ。」
古川マスターがお冷をコップを二つ、並べて置いた。それに合わせて二人も座った。
「ごめんね、連絡入れば良かったんだけど、急遽行こうってなって…。」
彩が申し訳なさそうに話す。
「構わないよ、寧ろ来てくれてありがとう。」
私は、心の底からそう思った。
「それにしても、香織ちゃん。それ、似合ってる。」
寧々が品定めする様に私をまじまじと見た。彩も頷く。
「そんなことないよ…。それより、注文はどうする?」
褒められ慣れてないので、慌てて話を逸らす。
「そっか、じゃぁ私アイスコーヒー!」
寧々は元気よく注文したが、彩はあたりをきょろきょろ見回す。それを見て寧々も「そっか」と呟いた。
「古川さん、苦くないコーヒーって出せますか?」
私が聞くと、古川マスターも何か察したのか、「とっておきのがあります」といい、カウンター脇の倉庫に入って行った。
「ごめんね…。」
彩がまた申し訳なさそうに謝った。
「大丈夫、古川さんもプロだから、彩の納得のいく物、淹れてくれるはず。」
「ありがとう…。そういえば、九条さんは?」
「彼は、早くても昼頃にならないと…。」
その時また、格子戸が開いた。
店内は冷房が効いたが、万年長物のインナーを着ている私とっては、冷房は苦手だった…。
「古川さん、その箱何ですか?」
開店準備のため、本日のおすすめメニューの看板を手書きしていた時、古川マスターが段ボール箱を抱えて、休憩室から出てきた。
「九条様が来てから、お見せしようと思います。彼の方が、多分扱い方を心得ていると、思いますので。」
少し自慢げに話す、古川マスターを見るのは初めてだった。
「そうですか…。それはそうと、おすすめはどうします?」
「今日は、暑いですから、グァテマラにしましょう。一昨日、SHBも入荷できましたし。」
SHB(ストリクトリー・ハードビーン)というのは、コーヒーの銘柄・『グァテマラ』の品質格付けの最高峰に位置づけられ、標高一三五〇メートル以上の高地で収穫される、上質の珈琲である。
フルーツの様な酸味とチョコレートの様な甘味が特徴的な豆で、深入りしても甘味が潰れにくいことから、ブレンドのベースとしても使われる。
アイスにしてもスッキリとした味わいがあるため、この時期にはぴったりのコーヒーである。
「飲みたそうな顔していますね?」
古川マスターが優しく聞いてきた。
「まだ、開店前ですので、一杯くらい構いませんよ。」
「じゃぁ、お言葉に甘えます。」
このお店の売りは、メニューや銘柄が方なだけではない。煎り度合や抽出方法も指定できる。
煎り方は『浅』『中』『深』の三通りだが、実際は八段階ある。
そのため、常連や通の方になると、事前に指定してくることもある。
また、裏メニューって程でもないが、要望に合わせてオリジナルのブレンド作ることもあり、時期やタイミングによっては、希少な豆が入荷することがある。
コーヒーに困ったらここに来れば、解決するほど、『珈琲喫茶』とは名ばかりではない。
古川マスターは棚から、ステンレス製の蓋つきのタンブラーを取り出した。
それにしても、暑い…。看板を置くため、店外に出た。大通りからは、ビル一本分離れているとは言え、車が通るたびに、熱風が体をかすめる。
急いで、店内に戻った。
「暑いですね…。」
「えぇ、昨日降った雨のせいで、湿度も上がっていますからね…。」
そういうと、タンブラー差し出してきた。
「温目に入れましたので、お好きな時に。」
「ありがとうございます。」
そうこうしている間に、格子戸が開いた。
「いらっしゃいませ。」
振り返りながら、入り口の方を見た。
「香織ちゃん、来たよ~。」
入り口に立っていたのは、彩と寧々だった。
「寧々、彩!きてくれたんだ!」
驚いて、少し大きい声を出してしまった。
「香織様のお知り合いですか?」
古川マスターがカウンターから、こちらを覗いた。
「はい、大学の友人です。」
「そうでしたか。では、カウンターにどうぞ。」
古川マスターがお冷をコップを二つ、並べて置いた。それに合わせて二人も座った。
「ごめんね、連絡入れば良かったんだけど、急遽行こうってなって…。」
彩が申し訳なさそうに話す。
「構わないよ、寧ろ来てくれてありがとう。」
私は、心の底からそう思った。
「それにしても、香織ちゃん。それ、似合ってる。」
寧々が品定めする様に私をまじまじと見た。彩も頷く。
「そんなことないよ…。それより、注文はどうする?」
褒められ慣れてないので、慌てて話を逸らす。
「そっか、じゃぁ私アイスコーヒー!」
寧々は元気よく注文したが、彩はあたりをきょろきょろ見回す。それを見て寧々も「そっか」と呟いた。
「古川さん、苦くないコーヒーって出せますか?」
私が聞くと、古川マスターも何か察したのか、「とっておきのがあります」といい、カウンター脇の倉庫に入って行った。
「ごめんね…。」
彩がまた申し訳なさそうに謝った。
「大丈夫、古川さんもプロだから、彩の納得のいく物、淹れてくれるはず。」
「ありがとう…。そういえば、九条さんは?」
「彼は、早くても昼頃にならないと…。」
その時また、格子戸が開いた。
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