23 / 309
2章:想い
4 甘味
しおりを挟む
「彩ちゃん、帰ったのかい?」
遠野さんが厨房からひょっこりと顔を出した。
「何だい、君たち知り合いだったのか、おじさんびっくりだよ。」
「同じ大学のね。」
「ほぉ。じゃ、彩ちゃんも本職のコーヒー貰いな。」
遠野さんが九条さんを指で示しながら言った。
「本職?もしかして、香織ちゃんのバイト先の?」
私はこくりと頷く。
「へぇ、近々寧々と行く予定だったけど、まさかこんな所で飲めるなんて。」
彩が嬉しそうに言いながら、背負っていたリュックを近くの壁に立てかけて、私の隣に座った。
「私は、ここの手伝いとしてよく来るの。まぁ、場所が場所だから、時間あるときしか来れないんだけどね。」
「彩ちゃん…でしたっけ?」
船瀬さんがカウンター越しに話しかける。
「はい。遠野彩夏です。そこのおっちゃんは私の叔父です。」
「それで…。」
納得した。彼女のことは、『彩』としか呼んでいなかったから、上の名前を聞いたことがなかった。
「僕は九条です。よろしく。」
船瀬さんが出来上がったコーヒーを出しながら言った。
「…美味しい…。」
彩が一口啜りながら言った。
「彩がコーヒー飲んでるところ初めて見たかも…。」
私も思わず口を零してしまった。
「私も、コーヒーってこんなにすっきりしてるとは思わなかった…。」
不思議に思った。私に出されたコーヒーは、いつも飲んでいる味だったからだ…。
「ちょっと、私にも飲ませて…。」
そう言い、彩のコーヒーに口を付けた…。確かに私のより、少し甘味が強い気がした。香りからして、同じ豆、同じ煎り方なのは分かった。ここまで、味の出方が違うとなると…。
「もしかして…。」
「流石に香織ちゃんは分かっちゃいましたか…。そ、蒸らし方と豆の量が香織ちゃんと彩ちゃんとで、それぞれ違うんです。
彩ちゃんの分だけ、甘味を少し強めにしてみました。」
淡々と説明する船瀬さんに私も感心してしまった。でも、謎が一つ残る。
「へぇ…。でも、どうして私がコーヒー苦手だと?」
そう、彼女がコーヒーが苦手なことをさっき知り合ったばかりの船瀬さんが知る訳がない。
「顔ですよ…。さっき、遠野のおっちゃんが“コーヒー貰いな”って言った時、一瞬眉が上がったのが見えました。だから、もしかしたらコーヒー苦手なのかなと…。極めつけは、香織ちゃんの顔です。あれだけ、心配そうな顔をしてしまえば、決定打になってしまいますよ。」
「わ、私そんな顔してました?」
私は、慌てて聞き返す。しかし、船瀬さんが右手の人差し指を立て、左右に振って見せた。まるで、“まだまだ”と言っている様な感じがした。
「お待ちどう様でーす。」
遠野さんがお盆にあんみつを三つ乗せて持ってきた。それぞれ、私たちの前に置いた。
彩と私のあんみつには、サクランボやミカン、キウイなどフルーツがたくさん乗っていた。船瀬さんの方は、フルーツ系は私たちのよりは多くないが、抹茶アイスが大きいのが印象的だった。
黒蜜を掛け、一口頬張った。コーヒーを飲んだ後だからだろうか、ものすごく美味しい…。テレビでも紹介されただけはあるなと、内心思った…。
「…美味しいです、遠野さん。」
「そいつは良かった。」
遠野さんがニコニコ顔で返してくる。
「うん、変わらない味だ。」
「変わるのは、俺の年だけで充分だ。」
たまに冗談を交えてくる、遠野さんが本当に良い人だと思った。
「彩は羨ましいなぁ、こんな美味しいものしょっちゅう食べれて…。」
おもむろに、彩の方をみた…。忘れていた。この娘、甘いもの食べると必ず幸せそうなまるで仏様の顔になる…。寧々は“幸せスマイル”と言って、毎回拝んでる…。
「本当に好きだね…甘いもの…。」
「うん…大好き…。」
私は、ちらりと船瀬さんを見た。いや、雰囲気からして、船瀬さんではない。この感じは一条さんだ…。その一条さんが懐かしむように、彩の“幸せスマイル”を見つめていた。
「九条さん?」
ぼそりと呟くように名前を呼んだ。
すると、急に我に返ったのか、船瀬さんに戻った。
「あぁ、ごめん。昔彩ちゃんみたいに甘いもの食べる人が居てね。それを思い出してた。」
声は、はっきりとしていたものの、私にはどこか、寂しそうに聞こえた。
遠野さんが厨房からひょっこりと顔を出した。
「何だい、君たち知り合いだったのか、おじさんびっくりだよ。」
「同じ大学のね。」
「ほぉ。じゃ、彩ちゃんも本職のコーヒー貰いな。」
遠野さんが九条さんを指で示しながら言った。
「本職?もしかして、香織ちゃんのバイト先の?」
私はこくりと頷く。
「へぇ、近々寧々と行く予定だったけど、まさかこんな所で飲めるなんて。」
彩が嬉しそうに言いながら、背負っていたリュックを近くの壁に立てかけて、私の隣に座った。
「私は、ここの手伝いとしてよく来るの。まぁ、場所が場所だから、時間あるときしか来れないんだけどね。」
「彩ちゃん…でしたっけ?」
船瀬さんがカウンター越しに話しかける。
「はい。遠野彩夏です。そこのおっちゃんは私の叔父です。」
「それで…。」
納得した。彼女のことは、『彩』としか呼んでいなかったから、上の名前を聞いたことがなかった。
「僕は九条です。よろしく。」
船瀬さんが出来上がったコーヒーを出しながら言った。
「…美味しい…。」
彩が一口啜りながら言った。
「彩がコーヒー飲んでるところ初めて見たかも…。」
私も思わず口を零してしまった。
「私も、コーヒーってこんなにすっきりしてるとは思わなかった…。」
不思議に思った。私に出されたコーヒーは、いつも飲んでいる味だったからだ…。
「ちょっと、私にも飲ませて…。」
そう言い、彩のコーヒーに口を付けた…。確かに私のより、少し甘味が強い気がした。香りからして、同じ豆、同じ煎り方なのは分かった。ここまで、味の出方が違うとなると…。
「もしかして…。」
「流石に香織ちゃんは分かっちゃいましたか…。そ、蒸らし方と豆の量が香織ちゃんと彩ちゃんとで、それぞれ違うんです。
彩ちゃんの分だけ、甘味を少し強めにしてみました。」
淡々と説明する船瀬さんに私も感心してしまった。でも、謎が一つ残る。
「へぇ…。でも、どうして私がコーヒー苦手だと?」
そう、彼女がコーヒーが苦手なことをさっき知り合ったばかりの船瀬さんが知る訳がない。
「顔ですよ…。さっき、遠野のおっちゃんが“コーヒー貰いな”って言った時、一瞬眉が上がったのが見えました。だから、もしかしたらコーヒー苦手なのかなと…。極めつけは、香織ちゃんの顔です。あれだけ、心配そうな顔をしてしまえば、決定打になってしまいますよ。」
「わ、私そんな顔してました?」
私は、慌てて聞き返す。しかし、船瀬さんが右手の人差し指を立て、左右に振って見せた。まるで、“まだまだ”と言っている様な感じがした。
「お待ちどう様でーす。」
遠野さんがお盆にあんみつを三つ乗せて持ってきた。それぞれ、私たちの前に置いた。
彩と私のあんみつには、サクランボやミカン、キウイなどフルーツがたくさん乗っていた。船瀬さんの方は、フルーツ系は私たちのよりは多くないが、抹茶アイスが大きいのが印象的だった。
黒蜜を掛け、一口頬張った。コーヒーを飲んだ後だからだろうか、ものすごく美味しい…。テレビでも紹介されただけはあるなと、内心思った…。
「…美味しいです、遠野さん。」
「そいつは良かった。」
遠野さんがニコニコ顔で返してくる。
「うん、変わらない味だ。」
「変わるのは、俺の年だけで充分だ。」
たまに冗談を交えてくる、遠野さんが本当に良い人だと思った。
「彩は羨ましいなぁ、こんな美味しいものしょっちゅう食べれて…。」
おもむろに、彩の方をみた…。忘れていた。この娘、甘いもの食べると必ず幸せそうなまるで仏様の顔になる…。寧々は“幸せスマイル”と言って、毎回拝んでる…。
「本当に好きだね…甘いもの…。」
「うん…大好き…。」
私は、ちらりと船瀬さんを見た。いや、雰囲気からして、船瀬さんではない。この感じは一条さんだ…。その一条さんが懐かしむように、彩の“幸せスマイル”を見つめていた。
「九条さん?」
ぼそりと呟くように名前を呼んだ。
すると、急に我に返ったのか、船瀬さんに戻った。
「あぁ、ごめん。昔彩ちゃんみたいに甘いもの食べる人が居てね。それを思い出してた。」
声は、はっきりとしていたものの、私にはどこか、寂しそうに聞こえた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
琥珀色の日々
深水千世
ライト文芸
北海道のバー『琥珀亭』に毎晩通う常連客・お凛さん。
彼女と琥珀亭に集う人々とのひとときの物語。
『今夜も琥珀亭で』の続編となりますが、今作だけでもお楽しみいただけます。
カクヨムと小説家になろうでも公開中です。
cafe&bar Lily 婚活での出会いは運命かそれとも……
Futaba
恋愛
佐藤夢子、29歳。結婚間近と思われていた恋人に突然別れを告げられ、人生のどん底を味わっております。けれどこのままじゃいけないと奮起し、人生初の婚活をすることに決めました。
そうして出会った超絶国宝級イケメン。話も面白いし優しいし私の理想そのもの、もう最高!! これは運命的な出会いで間違いない!
……と思ったら、そう簡単にはいかなかったお話。
※全3話、小説家になろう様にも同時掲載しております
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【キャラ文芸大賞 奨励賞】変彩宝石堂の研磨日誌
蒼衣ユイ/広瀬由衣
ミステリー
矢野硝子(しょうこ)の弟が病気で死んだ。
それからほどなくして、硝子の身体から黒い石が溢れ出すようになっていた。
そんなある日、硝子はアレキサンドライトの瞳をした男に出会う。
アレキサンドライトの瞳をした男は言った。
「待っていたよ、アレキサンドライトの姫」
表紙イラスト くりゅうあくあ様
セイカイ〜全ての暗号を解き明かせ〜
雪音鈴
ミステリー
制限時間内に全ての暗号を解き明かし脱出する《ゲーム》へと強制参加することになった主人公。その先に待ち受けているものとはーー?
【暗号を解く度に変化していく景色と暗号の解読を楽しみながらも、主人公の行く末を見守ってあげて下さい。また、読者の方々にも、2話目から暗号(という名のなぞなぞもあり。難易度は話数が進むごとに上げていきます)を解き明かしてもらう形式になっているので、楽しんでいただければ幸いです(*^^*)】
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる