レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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2章:想い

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 それから、約五分経過した。九条さんは、ゆっくりと息を吐き、アイスコーヒーをオーダーした。
 「大丈夫ですか?」
 アイスコーヒーを彼の前に置き、そう訊ねた。
 「あぁ、驚かせてしまったね。ゴメンゴメン…。」
 そう、途切れ途切れ答えた。
 「前に、僕と一条と船瀬で基本回してるって言ったのは、こういう理由から…。他の七人はそれぞれ個性が強いから、あまり滅多なことでは、出さない様にしてる…。」
 「暇だからって、あまり無茶しないでくださいね。」
 「はは、そうだね…。」
 力なく笑ったのは、何故か印象的だった。
 
 ガラガラ

 格子戸が開いたのは、古川マスターが店内に入って来たからではない。身長一八〇は優にある巨漢が立っていた。
 「菊池さん。いらっしゃい。」
 「おっす、宮ちゃんいつもの…って九条の兄ちゃんはどうしたんだ…。」
 この何かとこのお店に入り浸る、刑事さんだ。本当の目的は、今抱えている事件について九条さんの力を借りてたいから…。
 そして、今では一週間に三度も通うほど常連になっていた。いつの間にか私を“宮ちゃん”と呼ぶようにもなった。

 「休憩中です。」
 私は、いつもの…もとい、水出しコーヒーを提供しながら答えた。
 「今日は何の用ですか…。」
 菊池さんの隣に席を移動しながら、九条さんも訊ねる。
 「用がなきゃ来ちゃいけねぇのか?」
 「そうは言ってない。」
 「今日は、宮ちゃんのコーヒー飲みに来ただけだ。それに、今日お前がいるなんて知らなかったんだよ。」
 「水出しなので、正確には古川さんが作ってますけどね。」
 私も間髪入れず答えると、気まずそうに無言になる
 「じゃぁ、その封筒は何だ?」
 九条さんが、またしても問う。

 「あぁ、これはお前が欲しがってたやつ。今日やっと手に入ったから持ってきた。これ、何に使うんだ?」
 菊池刑事は九条さんに封筒を渡した。九条さんが中から取り出したのは、一枚の紙だった。何て書いてあったかは分からなかった。
 それを一通り眺めた後、“上出来”とだけ言い、封筒に戻した。
 「それはそうと、最近ひったくりとか多いみたいだけど、大丈夫か?」
 九条さんが世間話にすり替える。
 「大丈夫じゃねぇよ…。別チームが捜査してるみたいだが、完全にお手上げと聞いた…。ひったくりさえ、捕まえられないとなると俺らの商売あがったりだ…。」
 「警察が商売とか言うな。」
 「ふふ…。」
 思わず笑ってしまった…。

 「そういや、香織ちゃん。」
 「はい?」
 「明日暇?」
 何か、デジャヴな気がした。
 「何?お前らそういう関係?」
 菊池さんがニヤニヤしながら聞いてくる。
 「違います。明日は…特に用事ないですが…。」
 「甘いものが食べたくてね。」
 九条さんがスマホの画面を見せてきた。そこには“甘味処 甘王あまおう”の写真だった。
 「ここ、テレビでも何回も紹介された、有名な所じゃないか。」
 私より先に、菊池刑事が食いつく。
 「俺こう見えて甘党でさぁ、一回行ってみてぇよ。場所が場所なだけに、行こうと思っても、なかなかなぁ…。」
 菊池刑事がはぁとため息をつきながら、ぼやき。
 「意外なところに共通点があるな、僕もそうなんです。」

 「でも、どうして急に?」
 私はそう訊ねた。
 「ここの店主の遠野さんて人が、僕の知人でね。この間、腰を痛めたって聞いたもんだから、お見舞いもかねて、ちょっと覗きにね。だから、香織ちゃんもどうかなぁと思って。」
 「わかりました、行きます。」
 「羨ましい…。」
 菊池刑事が残りのコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
 「そろそろ戻らねば。宮ちゃんお勘定。」
 といい、レジに向かい、会計をした。
 「あ、そうだ九条。」
 格子戸に手を掛けた、菊川刑事の動きが止まった。
 「お前の考えてた通り、あったぞ。アリバイが…。」
 「…。」
 九条さんが無言のままコーヒーを啜る。私はこの手の話は聞かなかったことにしている。
 
 時刻はもう一六時になろうとしている。私と九条さんとでお店を閉める準備をしていると、今井さんが本日二度目の入店をした。
 「九条君?ちょっと良い?」
と言い九条さんを連れて、お店を出て行った。

 
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