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1章:香り
10 散乱
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「あの、一条さん何か分かりました?」
私は、移動中の車の中でそう訊ねた。
「あぁ、密室の謎は分かった。犯人も何となくは見当ついた。ただ、その動機も確定的じゃない。それをはっきりさせるために、」
「動機って、なんか殺人事件みたいですね。」
「これは、空き巣のように見えてそうじゃない。実際にとられた物はないみたいだからね。」
「なるほど。」
「俺も、まだ確定してない以上、憶測で話すのは嫌いだから、ここまでしか話さないよ。おっと、ここか。」
前を走っていた月島さんの車がとあるお宅の前で止まった。
私たちは車を降り、チャイムを鳴らした。
「伊藤さーん、月島でーす。さっき電話した件で伺いましたー。」
月島さんがインターホンに向かって挨拶した。
『いらっしゃい、ちょっと待ってて。』
インターホン越しから女性の声が聞こえた。
「女か…。」
一条さんが私にしか聞こえないくらいの声量で呟いた。
「女性だと問題あるんですか?」
私も、同じくらいの声量で聞き返した。
「悪くはないが、ややこしくなりそうだ。」
そうこうしている間に玄関の扉が開いた。中から出てきたのは、優しそうな女性だった。
「どうも、伊藤さん。紹介します。彼がさっき電話で話した九条君です。で、彼女が宮本ちゃん。」
月島さんが紹介してくれ、私たちも頭を下げた。
「どうも、伊藤里奈です。よろしくお願いします。」
伊藤さんも軽く会釈をする。
「立ち話もあれですから、どうぞ中へ。」
伊藤さんが中へ入るよう促した。
「お休み中のところお時間いただいて申し訳ない。」
月島さんがお詫びした。
「いえ、私も空き巣の件には気になっていたので。で、聞きたいことというのは。」
伊藤さんが、コーヒーを淹れながら訊ねてきた。
「率直に聞きます。貴女はあの日なぜ、あのログハウスに行ったのですか?」
九条さんが淹れられたばかりのコーヒー啜りながら
質問した。
「あのログハウスには週に一度、風を通しに行くようにしてるんです。その日もたまたま、風通しのために寄ったんです。」
「なるほど。では、貴女と月島以外で鍵を所有しているものはいますか?」
「いません。予備も含めて、鍵は全部で三本。もう一本はお店の金庫にしまってあります。」
「わかりました。では、最後に一つだけ。」
一条さんが人差し指を立てた。
「イタリア語は得意ですか?」
「イタリアで修行していた時がありますので、いくらかは。」
「なるほど、犯人が分かりました。」
「「「え?」」」
私含め、三人とも聞き返した。
「説明するので、伊藤さんも含めて、もう一度ログハウスに行きましょう。」
一条さんがニヤッとした顔で、提案した。
四人がログハウスに着いたのは、その提案から十分後だった。
「今回の空き巣事件の犯人は伊藤さん、貴女です。」
一条さんは伊藤さんに体を向けた。
「…何、言ってるんですか?私が?」
「九条、そう思う根拠を説明してみろ…。」
月島さんも少しイラついた口調で問う。
「じゃあまず、この写真の中から妙な点が三つ程ある。一つ目はこれ。」
取り出したのは本が散乱している写真だった。
「この写真には様々な本が移っています。だが、一冊だけおかしな本が混ざってます。この本です。」
一条さんは緑色の表紙の本を指さした。
「この本だけいくら探しても、このハウス内にはどこにもありませんでした。散乱した本は片付いているのに、この本だけ現在存在しません。」
「それは、自宅にあります。自宅でじっくり読もうかと。」
「ドイツ語のグルメガイド呼んで何になるんですか?」
一条さんが更にニヤッとする。
「えっ?」
伊藤さんは苦笑いを浮かべていた。
「そ、それは、今後のメニューの参考にしようと…。」
「イタリアンなのに?」
「…。」
「まぁ、それは一旦置いておきましょう。二つ目の妙なところは、またこの写真です。」
またしてもさっきの本が散乱している写真だった。
「香織ちゃん、おかしな点に気付かない?」
私に振ってきたので、戸惑いながらも写真を見た。本が散乱している以外は不思議な点が見当たらない…。
「流石に分からないか…。」
一条さん本棚の前に立った。すると一冊の本をぺらぺらとめくり、床に放る様に置いた。それから、もう一冊取り同じ動きを繰り返す。
「…あ。」
「気付いた?」
「はい、この写真の本、飛び散りすぎですね。」
「そ、本来普通の空き巣なら、本の中にも金品が隠されていることも想定して、こうやって一冊一冊調べるはず。なのに、この写真の本はまるで本棚から掻き出した様な有様です。つまり、これは探し物をしていたというよりは、散らかすことが前提の行為。」
「…。」
伊藤さんが更に無言になった。
「極めつけは、この写真です。」
それは、パソコンがバラバラになっていた写真だった。
伊藤さんの顔が更にひきつる…。
私は、移動中の車の中でそう訊ねた。
「あぁ、密室の謎は分かった。犯人も何となくは見当ついた。ただ、その動機も確定的じゃない。それをはっきりさせるために、」
「動機って、なんか殺人事件みたいですね。」
「これは、空き巣のように見えてそうじゃない。実際にとられた物はないみたいだからね。」
「なるほど。」
「俺も、まだ確定してない以上、憶測で話すのは嫌いだから、ここまでしか話さないよ。おっと、ここか。」
前を走っていた月島さんの車がとあるお宅の前で止まった。
私たちは車を降り、チャイムを鳴らした。
「伊藤さーん、月島でーす。さっき電話した件で伺いましたー。」
月島さんがインターホンに向かって挨拶した。
『いらっしゃい、ちょっと待ってて。』
インターホン越しから女性の声が聞こえた。
「女か…。」
一条さんが私にしか聞こえないくらいの声量で呟いた。
「女性だと問題あるんですか?」
私も、同じくらいの声量で聞き返した。
「悪くはないが、ややこしくなりそうだ。」
そうこうしている間に玄関の扉が開いた。中から出てきたのは、優しそうな女性だった。
「どうも、伊藤さん。紹介します。彼がさっき電話で話した九条君です。で、彼女が宮本ちゃん。」
月島さんが紹介してくれ、私たちも頭を下げた。
「どうも、伊藤里奈です。よろしくお願いします。」
伊藤さんも軽く会釈をする。
「立ち話もあれですから、どうぞ中へ。」
伊藤さんが中へ入るよう促した。
「お休み中のところお時間いただいて申し訳ない。」
月島さんがお詫びした。
「いえ、私も空き巣の件には気になっていたので。で、聞きたいことというのは。」
伊藤さんが、コーヒーを淹れながら訊ねてきた。
「率直に聞きます。貴女はあの日なぜ、あのログハウスに行ったのですか?」
九条さんが淹れられたばかりのコーヒー啜りながら
質問した。
「あのログハウスには週に一度、風を通しに行くようにしてるんです。その日もたまたま、風通しのために寄ったんです。」
「なるほど。では、貴女と月島以外で鍵を所有しているものはいますか?」
「いません。予備も含めて、鍵は全部で三本。もう一本はお店の金庫にしまってあります。」
「わかりました。では、最後に一つだけ。」
一条さんが人差し指を立てた。
「イタリア語は得意ですか?」
「イタリアで修行していた時がありますので、いくらかは。」
「なるほど、犯人が分かりました。」
「「「え?」」」
私含め、三人とも聞き返した。
「説明するので、伊藤さんも含めて、もう一度ログハウスに行きましょう。」
一条さんがニヤッとした顔で、提案した。
四人がログハウスに着いたのは、その提案から十分後だった。
「今回の空き巣事件の犯人は伊藤さん、貴女です。」
一条さんは伊藤さんに体を向けた。
「…何、言ってるんですか?私が?」
「九条、そう思う根拠を説明してみろ…。」
月島さんも少しイラついた口調で問う。
「じゃあまず、この写真の中から妙な点が三つ程ある。一つ目はこれ。」
取り出したのは本が散乱している写真だった。
「この写真には様々な本が移っています。だが、一冊だけおかしな本が混ざってます。この本です。」
一条さんは緑色の表紙の本を指さした。
「この本だけいくら探しても、このハウス内にはどこにもありませんでした。散乱した本は片付いているのに、この本だけ現在存在しません。」
「それは、自宅にあります。自宅でじっくり読もうかと。」
「ドイツ語のグルメガイド呼んで何になるんですか?」
一条さんが更にニヤッとする。
「えっ?」
伊藤さんは苦笑いを浮かべていた。
「そ、それは、今後のメニューの参考にしようと…。」
「イタリアンなのに?」
「…。」
「まぁ、それは一旦置いておきましょう。二つ目の妙なところは、またこの写真です。」
またしてもさっきの本が散乱している写真だった。
「香織ちゃん、おかしな点に気付かない?」
私に振ってきたので、戸惑いながらも写真を見た。本が散乱している以外は不思議な点が見当たらない…。
「流石に分からないか…。」
一条さん本棚の前に立った。すると一冊の本をぺらぺらとめくり、床に放る様に置いた。それから、もう一冊取り同じ動きを繰り返す。
「…あ。」
「気付いた?」
「はい、この写真の本、飛び散りすぎですね。」
「そ、本来普通の空き巣なら、本の中にも金品が隠されていることも想定して、こうやって一冊一冊調べるはず。なのに、この写真の本はまるで本棚から掻き出した様な有様です。つまり、これは探し物をしていたというよりは、散らかすことが前提の行為。」
「…。」
伊藤さんが更に無言になった。
「極めつけは、この写真です。」
それは、パソコンがバラバラになっていた写真だった。
伊藤さんの顔が更にひきつる…。
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