探偵注文所

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
234 / 281
ファイルXIV:追跡調査

#1

しおりを挟む
 「大野さん!少し落ち着いてきたから、休憩入って良いよ!」
 料理長にそう声を掛けられた。
 「はい!ここの食器洗い終わったら休憩入らせてもらいます!」
 忙しかった厨房はある程度ひと段落し、私は休憩に入った。
 潜入捜査というのは久々だが、ここまで本格的に変装しての、捜査はある意味初めてかもしれない。
 ザキさんに連れられ、ホームズに入社した時はただの事務員の様な位置づけだったのだが、私が物理学に精通すると知ると、それを活かした仕事を任される機会が多くなり、今では、特殊調査班の副班長を任されるまでになった。探偵事務所に所属するとは、昔の自分なら考えられなかっただろう…。

 何とも感慨深いと思いながら、休憩スペースの椅子に腰を下ろし、自販機で買ったリンゴジュースを飲み、久々にイヤホンの方に耳を傾けた。
 どうやら、工藤刑事とアミちゃんたちが、せっせと捜査を進めている様だった。それを聞き、出番はまだ来そうに無いと思い、ミカちゃんに、何か振られたら通知鳴らして欲しいとメッセージを送り机に伏せた。
 料理は得意で好きなのだが、流石に一主婦の私には疲れる…。同じく厨房で、毒が盛られたりしてないかに目を光らせている宮間さんは、元々料理人という事もあり、こういう環境、現場にはある程度慣れているのだろうか、朝からぶっ通しで厨房に立ち続けている…。

 「…流石、よくやりますね…。こういう事、やっぱり慣れてるんですか?」
 その声に驚き、思わず振り返った。声の主は、私と同じユニホームを着た、ポニーテールの女性だ。名前は確か、穂積詩帆。警視庁捜査一課の巡査部長。彼女も、私たちホームズ同様、潜入捜査を任されている…。まぁ、彼女だけでなく、他にもスタッフや客に扮した刑事さんたちは山ほど居るが、彼女は警察関係者では珍しく、私たちを邪険に扱わない、善き理解者でもあった。
 「まぁ、こういう仕事は慣れてますから…。」
 「そう…。それより、結構、可愛らしいも飲むのね…。」
 私の手元を見るなり、そう言った。
 「好きなんですよ…。何か問題でも?」
 「いいえ…。」
 穂積刑事はそう言うと、自販機から、麦茶を購入すると、私の隣に座り喉を鳴らしながら、飲み始めた。
 「何か見つかりそうですか?」
 私がそう訊ねると、彼女は首を横に振った。
 「まだ何も…。まったく、いつもなら、イタズラで片付けるのに、政治家が絡むと言い訳が面倒だからって、こうやって人力を尽くすんだよね…。一般人からすれば、堪ったもんじゃないよね。」
 彼女はまた勢いよく、麦茶を飲んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

処理中です...