探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルXIII:総力戦

#18

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 AIというのは素晴らしい物だ。扱い方さえしっかりと知っていれば、善にも悪にもなりうるだろう…。そんなAI…。もとい、『きなこ』は相沢達樹が0から作り上げた。姿形はそもそも無い筈なのだが、私が彼と知り合った時には既に、きなこは、“三毛猫”の姿だった。何をモデルにしたのか、何故猫で、『きなこ』なのかは全く分からないが、“きなこ”というAIは私たちの任務のサポートから、調査や時には事務仕事など、様々な場面で助けてくれる、いわば、ウチの万事屋に近い。
 そんな万能屋さんが、今はカメラを目にし、そこに映し出される画像を“データ”として処理して、集計してくれている。そこから、犯人像をアマキ班が主体で絞り出していく。何とも、何とも理にかなった動きだろうか。
 そんな中、私が出来る事はと言えば、件の“きなこ”と相沢が暴走しない様に見張るだけ…。地味かもしれないが、かなり大変な任務だったりする。犯人を捜し出すより、大変かもしれない…。AIというのは、加減を知らない…。私が幾ら全力を出したとしても、制御できるかなんて、分らない…。増してや、あの相沢が作ったAI。いくつもの隠し玉を持っていても、不思議ではない。
 それに引き換え、“きなこ”は私たちが身に着けている、スマホやスマートウォッチなどのサポートにも入れられている為、私が失敗すれば、ホームズのシステムに、大ダメージを受けることは、間違いない…。
 だから、片時もモニターから目を離すわけには行かなかった…。
 「それにしても、ソウ君、どうやってホテルのネットワークに忍び込ませたの?」
 その様子を見ていた天木さんが、相沢にそう訊ねた。
 『…天木、“シュレーディンガーの猫”って、知っているか?』
 シュレーディンガーの猫。確か、50%の確率で死んでしまう箱の中に猫を入れ、1時間後に箱を開ける。その時に、箱を開けるまで、箱の中では、理論上、“生きている猫”と“既に死んでしまった猫”の本来合わさる事のない二つの事象が同時に起きているという矛盾を説明するための架空実験の事だ。
 「知ってるよそのくらい。それと、何の関係があるの?」
 『きなこは、何処にでもいて何処にもいない。そんな物だと、思ってくれ。猫と同じ様に、神出鬼没で気まぐれで…。俺が作っていうのもなんだが、掴めない奴だよ、きなこってのは…。』
 その声は、少し懐かしむ様な声だった…。
 『ってのは冗談で、ただ単に、日下部に頼んで、ホテルのどこでもいいウォールジャックに通信用のデバイスを挿してもらっただけだ。』
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