探偵注文所

八雲 銀次郎

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番外編:裏

#4

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 「いらっしゃい、竹ちゃん。こういう日は、来なくても良いのに。」
 玄関を開けると、雨で少し髪を濡らした、大竹が立っていた。左手には、茶色の紙袋を、引っ提げている。
 「こういう時こそ、心配なんだろ。な?」
 彼は、そう言うと、駆け寄ってきた、狼犬二頭の頭や首回りを一頻り撫で始めた。
 「心配してきてくれるのは、嬉しいけど、貴方まで風邪とかひかれると、真紀ちゃんに迷惑掛かるのよ?」
 私は、そう言うと、昨日乾いたばかりのタオルを、彼の首に掛けた。
 「コーヒーで良い?ブラジルしかないけど…。」
 大竹は、「あぁ、頼む。」とだけ答え、ソファに腰を下ろした。
 「いつもの、買ってきたぞ。」
 大竹は、そう言うと、テーブルの上に、持ってきた、紙袋の中身を、置き始めた。
 それは、瓶に詰められた、紅茶の茶葉だった。
 「ありがとう。そろそろ買いに行かなきゃって、思ってたところなの。」
 私は普段、紅茶は滅多に飲まないが、ここにやって来るお客さんの中では、コーヒーより紅茶の方が好きという人も、居る為、一応両方置いておくようにはしているのだが、はっきり言って、茶葉に関しては、全くの素人だ。だから、いつも馴染みの店で買い揃えているのだが、その店がある街まで、バスで30分程掛かる。
 だから、普段は、調子がいい日を見計らい、まとめて買い出しや、ホームズの事務所まで、出かけている。
 だが偶に、今日の様に、大竹や真紀、日下部君なんかが、来てくれて何かと、差し入れだの、買い出し等に付き合ってくれる。普段、森の中で、ジャックやリリーの動物たちとしか居ない分、こうやって私の元を訪ねてきてくれるのは、正直嬉しかったりする。
 大竹は、髪をタオルで拭きながら、慣れた手つきで、棚の中に、茶葉を仕舞った。
 「今日は?一日暇なの?」
 「まぁな。日曜日だし。雨だし。する事無かったからな。」
 また、ソファにドカッと座ると、辺りを見渡した。
 「相変わらず、ここはゆったりとしてるな…。落ち着く。」
 「一応、“相談所”だからね。誰でも、落ち着けるように、なってるから、当然よ?」
 彼の前にコーヒーの入ったマグカップを置き、ソファに腰を掛けた。
 「サンキュー。」
 一口すすると、大きめのため息を吐き、更に、深くソファに座り込んだ。
 そんな彼の姿を見て、珍しく感じた。
 「どうしたの?なんか、最近大変な事でもあった?」
 「いや、只々色々と疲れててな…。こうやって、のんびりしたのが、久しぶりだなぁと、思って…。」
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