探偵注文所

ファイルⅪ：先手必勝

#29

　日下部さんが、店内に入って行ってから、5分が経った。これだけ長い、5分を味わったのは、人生初になるだろうか…。相手は、銃を持っている…。幾ら、彼であろうと、生物を傷つける為に、生み出された、凶器に、敵うとは、到底思えない…。
　固唾をのみ込んだのは、私だけでなく、他の刑事たちもだった。
　現場に、一段と、重い空気が漂っていた。
　
　その時、動きがあった。日下部さんと、秋山さんに、両腕を抑えられて店内から、出てきたのは、二人の男性だった。一人の顔は、先ほど、相沢さんが、提出した、三嶋の捜査資料の写真と、酷似していた。
　「は、犯人確保！」
　梅木警部がそう叫んだ。
　力に自慢のある、男性刑事数名が、二人の下に、駆け寄り、それぞれに、手錠をかけた。
　その後に、人質たちが、続々と、店内から、出てきた。
　これで、人質事件にも、決着が付いたと思われた、その時、土屋さんが、女性の両腕を、後ろで抑え、出てきた。
　「土屋さん！その方は？」
　私が訊ねると、彼は、疲れた様に、答えた。
　「この事件の、首謀者だ…。それより、犠牲者及び、負傷者ゼロ。被害は、店の商品や、棚、あと、アキが壊した硝子くらいだ。
　警察の諸君、ご協力、感謝する。」
　その言葉に、梅木警部始め、他の刑事たちが、敬礼をした。
　「こちらこそ感謝いたします。探偵事務所、ホームズ。」
　そう言うと、梅木警部は、三嶋と森田、そして、女性を、パトカーに乗せた。
　「約束は守る、俺たちは、こう見えて口が堅い…。だから、アンタも、もう少し、辛抱してくれ。」
　土屋さんが、彼女にそう言うと、女性は、睨みを利かせた。
　「信じるも何も、今は、これしか方法がないから…。」
　そう言うと、彼女たちを乗せたパトカーは、現場を後にした。
　それとは行き違いに、救急車も何台か、規制線の中に、侵入してきた。
　人質たちを、一応、病院にて、負傷具合を、確認するため、土屋さんを除き、全員運ばれた。

　“約束”

　警察が問いただせば、犯人から、直接聞きだせるかもしれないが、今回は、土屋さんにも訊ねないことにした…。多分それを聞いてしまったら、彼等の、“計画”が台無しになりそうな気がしたからだ…。
　「良し！次は、アマキたちのところか。まったく、忙しい日だぜ…。」
　土屋さんがそう言うと、六輪車に、乗り込んだ。京子さんと、秋山さんも、それぞれの車に乗り込んだ。
　「クドーさんは、行かないの？」
　エンジンを掛けた、京子さんが、そう訊ねた。
　「わ、私は、現場の片付けや、取り調べもあるし…。」
　そう言いかけたが、梅木警部に遮られた。
　「お前一人、居ないだけで、此処が回らない程、主要人物じゃねぇよ。
　行くならいけ。あいつらには、お前が、必要だ。」
　「こっちは、経験が浅い、工藤ちゃんより、いい仕事できると思うけどね…。」
　他の刑事たちも、賛同するように、そう言った。
　「どっちにしろ、私は、そっちメインだから、行くなら、乗せていくよ。」
　前園警部にまで、そう言われてしまえば、断れるわけがない。
　「行きます！私も天木さんの方、加勢させて頂きます。」
　私は、そう言い、一番近くにあった、京子さんの車に乗り込んだ。
　「ヨシ！……は、良いけど、酔ったらごめんね…。私、余り、車の運転、上手くないから…。」
　そう彼女が言うと、急発進させた。脳が揺さぶられる感覚がした…。
　この時ほど、日下部さんか、前園警部の車に乗ればよかったと、後悔する日が、来るとは、夢にも思わなかった…。