探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#21

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 この森田と言う男は、随分と、潔い…。だが、この男から伝わってくる感情は、緊張が解けた訳でも、諦めたような、絶望に近い感情でもない…。まるで、早くこの事件を終わらせたい様な、焦りすら、伝わってくる。
 「その“明菜”ってひとが、本堂の隠し子に、殺された、被害者って、訳か…。」
 「はい…。明菜は、誰にでも優しくて、気が利く、良い子でした…。そんな明菜を、殺し、反省の色も無い、本堂の息子も、それを、金で解決しようとした、本堂が、許せんのですよ…。」
 森田の、その言葉に、他の客たちも、言葉を失い、只押し黙るしか、無かった。
 「あんた達の気持ちは、分からんでもない…。だけど、もっと方法は、あったんじゃないですか?極秘で、マスコミに、リークするとか、弁護士を、依頼するとか…。」
 「やれることの事は、全部やったんだよ…。だが、事あるごとに、彼奴が、先回りして、手を回し、必ず負ける様、そんな情報を、無かった事にしちまった…。本堂は、そう言う男であり、それができる人間だ…。
 だから、少しでも、世論を、動かせるのならばと、この事件を、思い付き、結構した。
 自分でも、馬鹿げた事だと、思っているが、これしか、方法が無かった…。」
 三嶋は、また、コンテナの上に座り、更に続けた。
 「刑事さん、あんたには、分からんだろうな…。確かに、あんたは、他の警察とは、何か違う。だが、自分の最愛の人を殺された時の、憎しみと苦しみ。そして、行き場のない
怒りが、次第に大きくなって行くのが…。
こうでもしないと、自分が、可笑しくなってしまいそうで…。」
 わなわなと震えている、三嶋の表情は、怒りその物だった。
 「犯罪者の気持ちは、さらさら分からなくも無いが、あんたの感情は文字通り、痛い程知っている。」
 その言葉に、森田が、反応し、こちらに、視線を送った。
 「俺の、古い友人が、幼い時、年齢にして、4歳の時、ある鬼畜な犯罪者の手によって、両親と、年の離れた、姉、それから、飼い猫が、殺され、家ごと燃やされた。犯人は、そのまま、焼身自殺。
 20年近く経った今でも、覚えている。あの時の、そいつの悲鳴と、抜け殻の様になった、その後の事…。“疫病神”と、他の親族たちから、疎まれていたことも…。」
 「その後、その友人は、どうなったんですか?」
 森田がそう訊ねてきた。
 「最近は、余り直接会っていないが、どうにか、元気でやっているみたいだ。だが、あいつの心身に、一生拭う事のできない傷も負ってしまったのも、事実だ。」
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