探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#19

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 時刻は、30分程前に遡り、丁度、工藤と、京子が、宍戸が居るとされる、現場に向かった直後の頃だ。
 
 店内では、人質として、囚われた客や店舗スタッフたちが、スマホを使い、黙々とSNSに、本堂副総理の過去のスキャンダルや、報道関係者が、食いつきそうな、噂を、発信し、それを、フォローや反応を繰り返し、情報を、拡散していった。
 これが、世間の怖い所だ。権利が、大きい相手や、莫大な金銭を、簡単に動かせる相手には、周りを焚き付けるのが、一番効果的だ。
 そう言ったスキャンダルを、一番好むのが、報道関係者。インターネットやSNSも強力だが、報道雑誌や、ワイドナショー、新聞の方が、更に、信憑性が増してくる。更に、一社ではなく、複数の報道事務所で、同じような内容を、報道すれば、尚更、拍車がかかる。
 これが、所謂、“炎上”と言う物だ。
 こうなってしまえば、“自然消火”待つしかない…。
 まぁ、そうなってしまうのも、本堂副総理の自業自得。俺達探偵ごときが、止める義理は無いが、これ以上、ここに居ても、仕方がない…。
 「ちょっと良いか?」
 俺の声に、その場に居た全員が、手を止め、こちらを見た。
 「何だ?刑事さん。」
 三嶋が、怪訝な顔で、聞き返した。
 「ここまでする必要ってあるのか、と思ってな?」
 人質たち数人の表情も、少しだが、変った。
 「こんな騒ぎを起こせば、確実に実刑は泣脱がれない。そうなれば、裁判も確実に行われる。更に、世間を賑わせたとして、報道関係者の傍聴も確実に、増えるだろう…。
 だから、ここまで、“保険”を打っておく必要性はあるのかと、思って、聞いてみたんだ。」
 すると、三嶋は、ため息を吐いた。
「確かに、刑事さんの言う通り、ここまでする必要性は無いが、本堂の傷を、少しでも深くできないかと、考えたんだよ。」
「なるほどな…。じゃぁ、もう一つ、聞かせてくれ。何で、アカウントは、用意したのに、スマホは、用意しなかったんだ?
 今皆が使っているのは、自分のスマホだろ?これを機に、外部との連絡を、取られたら。とか、考えなかったのか?」
 スマホは、確かに、準備するのに、費用も、時間もかかるだろうが、本体だけ用意すれば、後は、モバイルルーター機器等を準備すれば、簡単な事だ。寧ろ、その方が、面倒だが、手っ取り早い。何なら、共犯者を特定しづらく、出来る。
 すると三嶋は、鼻で笑い、こう答えた。
 「それは、心配ない。この店のネットワークにフィルターを掛けている。俺が、指定した、アカウントとアプリ以外は、全て、通信不可になっている。」
 「じゃぁ、その機器は、にあるのかい?」
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