探偵注文所

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
184 / 281
ファイルⅪ:先手必勝

#13-9

しおりを挟む
 「お久しぶりですね。公務員のお姉さん。」
 宮間さんから、アイスコーヒーを貰いながら、そう言った。
 「お、お久しぶりです。えっと、その…。前に言っていた事、少し気になって、話だけでも、聞きに来ました。」
 「話だけでも良いの?今のお姉さんの顔見て居れば、仕事が辛いことは、一目両全ですよ?」
 「え?そ、そんなに、やつれていますかね…。」
 私がそう答えると、彼は声を上げて、割らし出した。
 「ごめんごめん、嘘。お姉さんの顔は、いつも通り、可愛い顔していますよ。」
 「ッ…。」
 可愛いなど、言われ慣れているわけでもないから、お世辞でも、少し照れてしまう。
 「こら。女性をあまり揶揄うんじゃないの。」
 「痛…。」
 白衣の女性が、彼の頭を軽く小突いた。
 「ごめんなさいね?この子、他人を煽てるのが得意な物で…。」
 立て続けに、保母さんが、そう言った。
 「い、いえ…。特に気にしていないので…。」
 気にしていないのは、嘘だが、何とか、平然を装った。
 「でも…。」
 彼女は、呟くと、私の身体全体を、舐める様に、眺め、最後に、私の顔を、見詰めた。
 他人に、見詰められるのも、余り慣れて居ないので、これもまた少し照れる…。
 「な、何ですか?」
 「貴女。どっちにしろ、今の仕事、合っていないでしょ…。そんな顔している。」
 そんな顔…。たった今、彼にも同じことを言われた。だから、彼女のも、嘘なのでは?
そう疑い始めた時、宮間さんが、口を開いた。
 「実採さんのは、“嘘”ではありませんよ。彼女は、心療内科。仕事柄、真実と、嘘を、表情と、態度で、見分ける事ができるらしいです。
 ちゃんと、真実をぶつけてみては如何ですか?」
 彼の言葉に、背中を押され。私は、先ほど、天木さんに、話した内容を、彼等にも、話した。その後、私は、彼等に、勧められ、仕事を辞め、『ホームズ』に入社した。最初は、事務仕事ばかりだったが、前の理想が伴わない、職場とは違い、幾らか、気が楽だった。何より、上司、先輩の区別が曖昧なため、特別な、気遣いをしなくても、済むこと。
 これだけ、過ごしやすい環境で、仕事が出来るなんて、想像もしなかった。だから、今の仕事内容でも、私は、気にならないし、寧ろ、楽しい。それに、私の秘密だけでなく、彼の秘密も、知ってしまった。
 だから、一層。彼の恩に、少しでも、返せる様にとの、目標が出来た。だから、どんなに、大変な仕事でも、頑張れる…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

Strange Days ― 短編・ショートショート集 ―

紗倉亞空生
ミステリー
ミステリがメインのサクッと読める一話完結タイプの短編・ショートショート集です。 ときどき他ジャンルが混ざるかも知れません。 ネタを思いついたら掲載する不定期連載です。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

一条家の箱庭

友浦乙歌@『雨の庭』続編執筆中
ミステリー
加藤白夜(23)は都心に豪邸を構える一条家の住み込み看護師だ。 一条家には精神を病んだ住人が複数名暮らしている。 お抱えの精神科医針間と共に一条家の謎を紐解いていく先に、見えるものとは? ケース1 一条瑠璃仁×統合失調症 ケース2 一条勝己×解離性同一性障害 ケース3 一条椋谷×健康診断 ケース4 渡辺春馬×境界例(予定)

フリー声劇台本〜1万文字以内短編〜

摩訶子
大衆娯楽
ボイコネのみで公開していた声劇台本をこちらにも随時上げていきます。 ご利用の際には必ず「シナリオのご利用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m

アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための10の技

MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。 私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。 すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。 そんな方に言いたいです。 アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。 あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。 アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。 書いたまま放ったらかしではいけません。 自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。

この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか―― 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。 鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。 古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。 オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。 ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。 ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。 ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。 逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

処理中です...