探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#13-8

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 「龍哉君が来るの?だったら、もっとちゃんとした格好でくればよかった…。」
 保母さんがそういうと、エプロンを外し、手で、服の埃を払い始めた。
 「あんたがあの子に媚び売ってどうするのさ。」
 「だって、可愛いじゃない。さすが、“サクラ”の弟だわ…。って、マキちゃんだって、白衣前閉じてるじゃない。」
 「私はあれよ、寒いだけよ。」
 彼女らの話を聞くあたり、篠崎龍哉という人物は、同じ職場内で、かなりの人気者らしい…。
 「あの、天木さん?その、篠崎さんって、どんな人なんですか?」
 私も、彼を知っているとは言え、名前と顔くらいだ…。彼の性格や、人物像の様な、細かいことは、知らない…。
 「龍哉ねぇ…。」
 そう呟くと、一口、二口、アイスココアを口に含み、喉を鳴らした。
 「優しくて、かっこよくて、喧嘩が強くて、頭がよくて…。」
 「そ、そういう事を聞いたんじゃなくて…。」
 慌てて、彼女の口に、ストップをかけた。あの調子だと、いつまで続くか分からない…。
 「ごめんごめん…。ん~と、なんて言えばいいのかなぁ…。何というか、他人のことを理解するのが上手いんだよね。共依存とは違う様な、そんな感じ。
だから、他人の心に上手い具合に入り込める。そうなっちゃえば、新進的に弱っている人なら、ある意味、ドキッときちゃうんじゃない?私もそうだし…。」
 天木さんが、そう言い終わったとき、宮間さんが、クスっと笑った。
 「じゃぁ、あの人たちも?」
 私は、扉の前で、喋っている彼女たちを指さした。
 「彼女たちは、私もよく知らない…。と言うのも、私や宮間が、彼と知り合う前から、あの人たちは、彼と接点があったらしいからね…。どういう関係なのかは、全く教えてくれないんだよね…。
まるで、全員で、何かを守っている様な…。そんな感じ…。」
 何かを守る…。それを教えてくれる時が、来るのだろうか…。
 私が、そう思った直後、扉が勢いよく、バンと、音を立てて、開いた。
 「暑い…。」
 天木さんが入ってきた時と、全く同じ口調、同じイントネーションで、彼が、入ってきた…。
 「龍哉君!久しぶり、元気してた?」
 保母さんが嬉しそうに、彼に訊ねた。
 「お陰様で、夏バテ以外は、元気です。」
 「ちゃんと、ご飯食べないと、駄目よ?食欲増進の薬、処方してあげようか?」
 続いて、白衣の女性も、彼に、そう訊ねた。
 「そこまでしてくれなくても、大丈夫ですよ、真紀さん。しいて言うなら、睡眠薬、また貰おうかな…。」
 「分かった、用意しておくから、月曜日、ウチに来て。」
 「サンキュー、さ、退いてくれ、二人とも。」
 彼は、そういうと、こちらの方に、歩みを進めた。
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