探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#13ー6

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 「どうして分かったんですか?」と聞きたいところだが、彼と同じ職場に所属している以上、何か聞いている可能性がある…。
 だが、先ほど宮間という男が、彼女のことを、“頭が良い”と言っていた…。その本質、調べさせて、貰おうか…。
 「どうして、そうだと、思ったんですか?」
 私が、そう訊ね返すと、彼女は、一口、アイスココアを啜った後、私の右手の中指を、指さした。
 「これ、ペンダコだよね。しかも、今々できた物じゃない。硬質具合から見て、数年は経過していると見ました。
 それだけなら、漫画家ともとらえられるかもしれないけど、今日は、土曜日。売れっ子なら、休みなんて、殆どないに等しいだろうし、それ以外なら、尚更。たまたま、今日休みが取れたのだとしても、ネタ収集の為に、何かしら、メモ用紙など持っているだろうし、探偵事務所になんて、アポなしで来るものじゃない。
そうなれば、貴女の仕事は、普段から、筆記が多い仕事。つまり、教師か公務員関係。
 もし、このペンダコが、昔からの、勉強してできた物なのだとしたら、公務員試験。しかも、かなりの上級物…。
 お姉さんの見た目からして、20代。その上級物を一、二発で合格したとすれば、貴女、相当頑張ったんだろうね…。」
 天木さんは、そういうと、私の手の甲を撫でた。その手付きが、とても優しく、心地よかった。母親からも、こんな撫で方をされた覚えがない…。
 それより、私のペンダコ一つから、ここまで、推理されるとは、思わなかった…。だが。
 「それだけでは、さっきの答えまでは、辿り着けませんよ…。」
 そういうと、彼女は、また一啜り、アイスココアを口に含んだ。
 「それは、簡単よ。彼が名刺を持ち始めたのは、丁度半年前からだから。それと、彼は、かなり、警戒心が強い人。彼が名刺や、“実名”を明かすのは、かなり珍しい。長時間かけて、何かしら、貴女の、裏付けをしているに、違いないと思った。ただそれだけ。
 駅構内というのは、貴女と、“龍哉”との、利用する駅が、一緒なんじゃないかと、推測したまでです。」
 彼女は、アイスココアを飲みつつ、私の手の甲を摩った。
 「かなりカサカサしてますね…。もう少し、肌の手入れは、しっかりした方が良いよ。彼、そういうところも、気にする質だから…。」
 今の、彼女の発言で、はっきりした。天木さんは、篠崎龍哉に惚れている。“彼”や本名をいう度に、緊張した様に、言葉を、少し詰まらせたり、頬が赤くなったりしている。私が彼のことを、好いているとは、全く別次元の様だ…。
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