探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#13-4

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 憧れた仕事は、私にとっての天職ではなかった。所謂、“思ったものと違った”ということだ…。一言に、“財務省”と言ってしまえば、かっこいいが、国を回す仕事だ。この仕事に就いた私には、責任が当然ついて回る。それに加え、他の省との付き合いや、マスコミの対応など…。毎日が忙しすぎた…。細かい仕事や、雑用とかなら嫌いでもない…。それでも、私の思っていた仕事とは、かなり外れていた…。
 勤め始めて、3年が過ぎた夏、ふと、彼から貰った名刺が、財布の中から出てきた。所々文字が掠れているが、何とか事務所の住所や彼の電話番号などは、分かる…。
 

 次の土曜日、私は朝から、名刺に書かれていた、住所に向かった。扉の脇には、ネオン看板らしきものがあるが、光っていない…。
 アポなしできた、こちらに非がある…。出直そうが、迷ったが、一応ドアノブを回した、
 すると、扉が、唸りを上げて、開いた。ほんのりと、香ばしいコーヒーと、トーストの香りが漂ってきた。
 「ん?どちら様ですか?」
 扉の近くに座って、コーヒーカップを手にし、PCを弄っている男性が、訊ねてきた。
 「あの、えっと…。今日は休みですよね?」
 「まぁな。依頼なら、平日か、アポ取って、日程調整してきてくれ。それとも、誰かに用かい?」
 「えっと、篠崎く…篠崎さんに、少し用があったんですが…。」
 私は名刺を、提示した。
 すると男は、コーヒーカップをソーサーに置き直し、立ち上がった。
 「おい、宮間、お客さんだ。龍哉も呼んでくれ。」
 奥の方にそう声を張ると、誰かが出てきた。
 「もう呼んでますよ。10分ほどで到着するそうです。その間、何か飲まれますか?アルコール類以外は、一応なんでも、置いていますよ。」
 片目を前髪で隠した、バーテンダー風の男が、そう言った。
 「じゃ、じゃぁ、シェイク類、何かありますか?」
 「シェイク…。」宮間と呼ばれた男は、冷蔵庫を漁り始めた。
 「バナナしかないんで、バナナシェイクで良いですか?」
 かなり、無茶な注文だった筈だが、作れるらしい…。
 「…じゃぁ、それで、お願いします…。」
 「はーい。じゃぁ、そこに座っていてください。」
 
 近くにあった、ひじ掛けソファに腰を下ろした時だった。扉が、唸りを上げて開いた。
 「あちぃ…。」
 そういって入ってきたのは、女の子だ…。私よりも、背が低く、見るからに、中学生下手したら小学生とも取れそうな見た目だ…。
 暑いと言いつつ、上は、スカイブルーの7部袖のラウンドネックシャツ。下は白のロングスカート。それで熱くないはずがない…。
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