探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#13-3

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 「前に使っていた路線は、都の中心部に行く路線です。郊外に行くのなら、もっと別の路線を利用すればいい。なのに、貴女はあの路線を利用していた。
 そして、決定打は、今居るこの駅、御茶ノ水です。ここから“霞ヶ関”までは、たった4駅。通勤しやすいですね。」
 彼は微笑みながら、そう答えた。ただ、それだけでは、判断材料が少なすぎる。
 「確かに、貴方の言っている通り、私は公務員をしています。ですが、それだと、決定打に掛けますよね?この路線上には、赤坂とか、表参道、代々木なんかもありますよね?何故、ピンポイントで、霞ヶ関で降りるって、分かったんですか?」
 すると、彼は、私のバッグに繋がった、パスケースを引っ張り上げた。それを見て、私自身、苦笑してしまった。
 「ここに堂々と、“霞ヶ関”って書いてありますからね。聞かずとも、分かります。」
 何か、聞いた私が恥ずかしくなってきた…。
 「お姉さん、名前は?」
 「え?」
 「いつまでも、お姉さんのままじゃ、あれだし、少し、貴女に興味が湧きました。」
 急な申し入れに、驚いた。興味と言うのは、つまり…。いや、彼は見るからに、まだ中学生か高校生。そんな仲になるには、法律だのなんだので、マズいのではないだろうか…。でも、一応聞いてみても、問題はないだろう…。
 「あの…。興味って?」
 「あ、すみません。正確には、貴女の能力の方です。」
 「能力?」
 「良く、この人込みの中、しかも階段を下りている、最中、僕を見つけられましたね。
 鳥瞰か俯瞰か。どちらにせよ、貴女は、視野が広いどころか、ピンポイントで、その部分を切り取って、人や物体を、探し出せるんじゃないかなぁと、思って。」
 その言葉に、更に驚いた。確かに、彼の言う通り、私は、視野が広い。と言うのも、産まれたときからではない。私が学生の頃から、ずっとハマっている、趣味が高じて、この高い視野が、実に着いた。
 と言っても、実際に広範囲の対象が、見える訳では無い。視線や首を動かしたりして、視覚から入る情報量を増やし、それを脳内で、一枚の大きな画像にする。ただそれだけなのだが、それが、自慢できるものだとは、思ってもいなかった。
 「貴方は、私のこの眼に、興味があるという事ですか。」
 「そうです。普通なら見えない物や、見逃しそうな物を、君なら、捉えてくれそうだと思いまして…。申し遅れました。僕は、こういう物です。」
 そういうと、ポケットに入れていた財布から、名刺を、取り出し、私に差し出した。
 「ホームズ探偵事務所取締役 篠崎龍哉」
 名刺には、そう書かれていた。
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