探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#13-2

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 「雑誌、好きなんですか?いつも読んでいるみたいなので、気になって…。」
 スマホが流行している時代に、雑誌をほぼ毎日、しかも、違うジャンルの物を読み漁る学生など、そうそういない。
 「あぁ、これ?別に好きっていうわけじゃ、無いですよ。ただ単に、知識が欲しいだけです。」
 「知識?」
 「ネットで調べるのも、悪くないですが、雑誌の方が、専門的な知識を、蓄えるには、一番良いと思っています。」
 「専門的なのに、色々なジャンル読んでいますよね?」
 「広範囲な知識が、僕等には、必要なんです。」
 “僕等”と言う言葉に、少し引っかかった。だが、それを聞く前に、電車が来てしまい、二人とも、人の波に飲まれてしまった。
 
 それから、毎朝、少しずつではあるが、彼と、話す様になり、数か月が過ぎた頃、彼はまた、ぱたりと、この駅に顔を出さなくなった。
 私も年明けから、もう少し、職場に近い所に、引っ越す予定だったから、この駅を利用するのも、あと、数える程度しかない…。
 だから、最後くらい、それを伝えたかったのだが、それを逃してしまった…。それも、何かの縁だと思っていたのだが…それが、運命だと確定づける、出来事が起こった。それは、年明け、引っ越しも終わり、新しい、最寄り駅のホームに向かう、階段を、降りている時だった。見覚えのある学ランに、見覚えのある後ろ姿、手にはスポーツ雑誌…。間違いなく、“彼”だった。
 一瞬ドキッとしたものの、声を掛けずにはいられなくなり、彼の下まで、駆け足で階段を下って行った。だが、ラッシュ時の人の多さも相まって、私は、途中、バランスを崩し、転びかけた。だが、私の身体は、階段に叩きつけられる代わりに、彼の右腕に、支えられていた。
 「階段で、無理に駆け降りるのは、危険ですよ。黒髪のお姉さん。」
 「ご、ごめんなさい…。ありがとうございます…。そ、それより、お久しぶりですね。貴方も、お引越しされたんですか?」
 「いいえ、この駅の近くに、寝床にしている所があるんです。最近は、そこから学校に通ってます。
 お姉さんこそ、引っ越しなさったんですか?」
 「はい。職場に近い所に、引っ越そうと、前々から思っていました。」
 身体を起こしてもらいつつ、彼の質問に答えた。
 「やはりそうでしたか。お姉さんの職場は、何とか“庁”や、何とか“省”と言われるところですね。」
 「え?」
 図星を突かれた…。とはいえ、隠していた訳でもない。今まで、聞かれなかったから、答えなかっただけだ…。
 「どうして、分かったんですか?」
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