探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#12

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 アイスティーと、アイスレモンティーを二つ受け取り、京子さんの姿を探した。そして、見つけた。店の奥にある、喫煙ルーム入り口の近くの、丸テーブルに座っていた。
 「はい、アイスティーです。」
 「ありがとう。」
 彼女は、アイスティーを受け取ると、一口ストローから、啜った。
 「で?どうやって探すんですか?」
 「当然、目で。」
 彼女は、そう言うと、テーブルの一点を、見詰め始めた。しかし、どう見ても、彼女の焦点は、テーブルを捉えて居ない…。まるで、天井。いや、もっと上から、この店内を見下ろされている…。そんな感覚だ…。
 「………見つけた。」
 彼女がそう言うと、アイスティーをおもむろに啜り始めた。
 「覚えたから、後は、ご本人が動くまで、待ってましょう。」
 「え…。」
 「現行犯の方が、一番説得力あるでしょ?」

 客足は多いとはいえ、ここはカフェ。まったりとした時間が、流れていく。私も、彼女に釣られ、自分のレモンティーを、口に入れる…。喉が渇いていたからなのか、より一層、美味しく感じる。
 そう言えば、浅石京子と言う、女性と二人きりで、しかもゆっくりとした、タイミングで…。天木さんや、柏木さん、よくホームズの事務所に居る、凛さんとも、ある程度は、何度も話したことがあるし、仕事も何度か一緒にしたことがある。だが、京子さんとは、顔見知り程度で、顔馴染みではない…。
 だからこそだが、浅石京子と言う女性に、何となく興味が湧く…。
 「あの、京子さん。何で、この仕事しているんですか?前職のままの方が、給料良いんじゃないんですか?」
 「そうね…。守りたいものが出来たからかな…。」
 先ほどとは違う、更に遠い目をし、表の窓の方を見詰めた。
 「守りたいもの…ですか?」
 「そう…。ある人とその人の心。最近になるまで、独りぼっちで居た、細くて、それなのに、虚勢張って、努めて気丈に振舞う、彼の心を、近くで、時間をかけてでも、守って、癒していきたいと、想った。ただそれだけ…。」
 少し、意外性を感じた。私が聞く限り、ホームズのメンバーは、何らかの重い過去を持ち、それを汲んでくれた、「ザッキー」さんと呼ばれる男性の下に集い、『ホームズ』と言う探偵事務所を立ち上げた。
 だが、京子さんの場合は、少し違う。
 「その、“ある人”と言うのは、その…京子さんの彼氏とかですか?」
 「そうじゃないけど、少なくとも私は、惚れていた。私の趣味を理解してくれたし、何より、『私』を理解してくれた。それだけなのに、私の心を動かすには、十分すぎた…。」
 語っている彼女の頬が、徐々に赤く染まっていくのが、分かる。
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