探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#11

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 人質事件の現場から、車を走らせ、数分。京子さんの示した、チェーン店のカフェに到着した。駅の構内や、周辺を中心に、全国に展開する、大手フランチャイズ店だ。実際、私も、この支店ではないが、よく訪れたりする。
 「ここに、三嶋の仲間が居るんですか?」
 「おそらく…。」
 京子さんが、落ち着いた言葉で、答えた。
 「それは、そうと、あの人の中から、どうやって、そのお仲間さんを、見つけるんですか?」
 お昼に近いからというのもあるのか、車の中からでも、分かる程の、人の数だ…。名前も顔も、性別も分からないのに、どうやって、この中ら、見つけ出すと言うのだろうか…。
 「クドーさん、水分補給しに行きますよ。」
 京子さんがそう言い、シートベルトを外した。いつの間にか、黒縁の眼鏡をかけている。
 「水分補給って、あの店にですか?」
 「そう。前園さんたちは、隣のネカフェマークしておいて。5分位で、部屋番号、炙り出すから。」
 そう言い残し、車を後にした。それに続き、私も、慌てつつも、車外に出た。
 「あの、令状も無いのに、どうやって、店内を捜査するんですか?」
 そう京子さんに、問いかけたが、返って来た答えは、全くの的外れな物だった…。
 「工藤ちゃん。今日も暑いねぇ…。これだから、外回りの仕事は…。」
 わざとらしく、顔を手で仰ぎ、掻いても居ない、額の汗を拭った。前に柏木さんに教えてもらった事がある…。彼女たちは、普段から、仲間を、犯人や他人に知られない様に、例え休日の、ショッピングモールで、たまたま遭遇したとしても、直接挨拶を交わしたりはしない。
 それは、潜入捜査中の、演技にも通用する。エアコンの利いた、車から出た直後で、粒状の汗は、私の体表からは、まだ出て来ていないが、彼女の額は違った。 
 まるで、数分間、この灼熱の都会の道を歩いてきたと、思わせるような、大粒の汗が、頬を伝っていた。
 彼女の、言葉と、その汗に、全て察しが付いた…。
 「そうですね…。ちょこっとくらい、休憩していっても、バチは当たらないでしょう…。」
 私も、シャツの胸元のをパタパタと仰ぎ、“暑さ”を表現した。
 「そうね…。じゃぁ、ここで良いんじゃない?他人は多いけど、涼むには、丁度良いかも。」
 その言葉を、引き金に、私と、京子さんは、店内に、表から堂々と、侵入した。
 

自動ドアを抜けると、冷房の冷気が、一気に身体中に流れ込んだ。
「私、席取って来るから、アイスティーお願い。それと、領収書貰っといて。」
 普段の、しっかりとした、京子さんの「敬語」ではなく、フレンドリーな、ため口に少し、違和感を覚えるが、何故だか、親近感が湧く、自分も居る。
 「はーい。」
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