探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#5

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 「これ、逆じゃない?」
 京子さんが、閃いたように、声を上げた。
 「逆?つまり、夜に、横浜に通って、日中は、都内のどこかで、仮眠をとっていたって、事ですか?」
 「そう。ただ、一つだけ、引っかかってます…。」
 『ネカフェか?』
 相沢さんが、口を挟んだ。
 「三日前、移動した、目黒。ここだけ、系列店が、抜けているんですよね…。他の駅周辺には、もれなく同じ系列店舗が、点在しているのに…。」
 納得がいかない、といった風に、自分の顎を触り、更に、深く考え込んだ…。
 「みょ、妙に詳しいな…。行き慣れているのか?この辺り…。」
 梅木警部が、呆気にとられたように、呟いた…。
 確かに、記憶力の良い、天木さんや、その道に詳しい、相沢さんが把握しているなら、何となく、分かるのだが、少し頭の回転が良い、一般人の、京子さんが、ネカフェの系列店の、位置や、数を把握しているものだろうか…。
 「彼女は、見た目に寄らない趣味が、あるんですよ…。」
 前園警部が、ぼそりと呟いた…。
 「趣味…ですか?」
 「そこから先は、本人に、直接聞いた方が、良いね。私も、教えてもらったのは、つい最近になってからです…。」
 「なるほど…。ん?」
 今、“つい最近”と言わなかったか?つい最近というなら、大体、ここ一か月くらいの話だろう…。
前園警部は、私がホームズと、関わるようになってから、一度も彼らと接触しているところを、見ていない…。
 それ以前に、私が、刑事になってからも、そんなそぶりを、一度も見なかった…。
 なのに、つい最近、京子さんに会い、世間話をしていた…。
 
 何故?ホームズのメンバーは、警察の上層部も、目を光らせるほどの、優秀な集団…。つい先日、私も、前園警部に直接、警告してもらったばかり。
 それより、前園警部と、彼らとの関係は、一体…。
 
 「クドーさん、聞こえてます?」
 「え?あ、はい!なんでしょう!」
 別のことで悩んでいた、私に声を掛けたのは、京子さんだった。
 「何でしょうじゃなくて…。まぁ良い…。どう考えたって、分からない事があるから、本人に、直接聞こうかって、話です。引き受けてくれますか?」
 寝耳に水という、諺を作った人は、まさにこんな状態だったのだろう…。昔の人は偉大だ…。
 「すみません、一から説明してもらっても、よろしいですか?」
 「このまま、いつまでたっても、犯人の思惑も、真相も、分からねぇって、嘆いたって、時間の無駄だ…。だから、工藤、お前ちょろっと聞いてこい。」
 梅木警部が、至極まじめな顔で、そう言った…。
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