探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅪ:先手必勝

#2

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 『梅木警部!』
 そう無線越しに、叫んだのは、三島の自宅を、捜査していた、男性刑事だった。
 「どうした!」
 『三島の自宅は、もぬけの殻です。大家さんの話によると、2~3か月前、急に、引っ越すといって、アパートを、出て行ったらしいです。』
 「そうか、今住んでいるところの、心当たりは?」
 『全く分からないそうです。これから、実家の方に、行ってみます。』
 「あぁ、よろしく頼む。」
 
 「当然っていえば、当然ですね…。」
 京子さんが、梅木警部にそう言った。
 「あぁ、武装しての立てこもりなんざ、念入りに、計画しなきゃ、意味が無ぇからな。」
 このままだと、実家の方でも、大した情報は、出てこないだろう。
 『ちょっと良いか?』
 私たちが、頭を悩ませていると、無線から、またしても、声が聞こえた。この声は…。
 「なんだ、相沢。」
 『三島のここ一週間の、行動履歴を手に入れたんだが、欲しいか?』

 「「は?」」

 まさかの、提案に、私と梅木は、素っ頓狂な声を上げて、聞き返した。
 『三島のここ一週間の、行動履歴を手に入れたんだが、欲しいか?』
 相沢さんが、さっきと全く同じ口調で、さっきと全く同じ内容を、もう一度話した。
 「いや、聞こえていなかった、の意味の、“は?”じゃないと思うけど…。」
 京子さんが、冷静にツッコミを入れた。
 『そうか…。容量大きいから、ウチの共有サーバに入れておくから、必要だったら、そこから、引っぱり出して、勝手に見てくれ。』
 その言葉に、京子さんは、自分のPCを取り出した。
 そこには、三島が、使用した駅や、コンビニ等が、事細かく記載されたデータ。監視カメラから、引っ張って来たと思われる、動画や、画像等が、大量に保存されていた。
 「凄い…。」
 私は、思わず、感動した…。
 「どうやって、こんな短時間で…。」
 梅木警部や、ほかに刑事たちが、呆気にとられたように、そう口々に、呟いた。三島の情報が、開示されてから、まだ、一時間しか経っていない。それなのに、これだけ莫大な量の情報を、たった一人で、調べ上げた…。
 確認作業だけでも、かなりの時間を費やすはずなのに…。
 「あの人には、きなこちゃんが居るから、こんなの、文字通り、朝飯前なんでしょ…。」
 きなこ…。思い出した。確か、相沢さんが作り出した、人工知能。所謂、AIだ。
 『そ、きなこに、三島の顔を覚えさせて、東京一帯にある、監視カメラ映像から、三島を探し出させた。そこから、交通系ICの情報を、駅の改札をハッキングして、抽出。あとは、それを使ったであろう、公共交通機関、コンビニや、飲食店の、レジをすべて捜索。
 あとは、きなこから送られてきたデータを、俺がまとめ上げただけ…。』
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