探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅩ:潜入捜査

#12

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 事務所の扉を、豪快に開け放ったのは、植月だった。
 「連れて来たぞ。」
 植月の後ろには、女性の姿があった。それを見た、依頼人の男は、声を荒げた。
 「朱美!ど、どうして。」
 朱美と言われた女性は、一歩前に出て、男に応えた。
 「あんたが雇った探偵さんたちに、色々聞いた…。」
 ぼそりとそう言うと、男を、キッとした目つきで睨んだ。
 彼女は、今回の依頼の調査対象の女性。つまり、依頼人の嫁さんだ。実は、先ほど、植月と別れた後、接触していた。そこで、今回の依頼された内容と、男性の、やろうとしている事を、打ち明けた。
 「まぁ、スペースは、貸してやるから、後は当人たちで、話し合いな。なんだったら、その筋の、良い弁護士も紹介できるから。」
 植月が、親指で示した場所は、私が居る場所とは、対角線側だった。
 そこには既に、宮間がコーヒーを二人分用意していた。
 男は項垂れながら、席に着き、朱美さんと、話し始めた。

 「初めてにしちゃぁ、上出来じゃねぇか?」
 今度は、植月が、私の隣に、座った。宮間から貰った、コーヒーを片手に…。
 「それに、よく気が付いたな、あの男が、浮気をでっち上げようと、していた事。」
 「まぁ、事務所に来た時から、話し方に、違和感があったし、宣伝もまだしていないウチに、足を運ぶってのも、何か、後ろめたいのが、あるんじゃないかなぁ、って思っただけ…。」
 「いや、すげぇ観察眼と、考察力だ。天木にとっては、この世界は、天職なのかもしれないな…。」
 私は、小さい頃からの、夢など、ないに等しかった。小学校の時の文集には、「学校の先生」とか書いた記憶もあるが、それも、何か書かねば、と思ったから、適当に書いただけだった。
 だから、どんな職についてだとか、どんな仕事が、自分に向いているのかとかは、今まで考えた事が、無かった。
 「そ、そうですかね…。」
 おまけに、褒められ慣れて居ない。慣れないことが、二つも同時に起きると、こそばゆいどころか、少し照れくさい…。
 そんな私を見て、植月は、くすりと笑った。
 「とはいえ、調子に乗って、あれもこれも、って、やろうとすると、自分の本当にやりたいことを、見失うからな。お前は、自分の得意分野を、徹底的に伸ばした方が、良いだろうな。それが今後、お前の武器ともなるだろうな…。」
 すると、今度は、懐から、煙草を取り出し、ライターではなく、マッチを擦って、火を点けた。藤吉が吸っている物とは、違い、甘い香りが、漂い始める。
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