探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅩ:潜入捜査

#10

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 私も、まだ見習いとは言え、列記とした探偵だ。ボイスレコーダーや、隠しカメラくらい、常に携帯している。男に話しかけられた直後に、このポケットに忍ばせていた、ボイスレコーダーを、起動させ、今までの音声は、全て録音されている。
 「何故、こんな事したんだ?」
 藤吉が、男に向かって、そう訊ねた。だが、男は、何も言わない。それも、そのはず…。目の前に、ボイスレコーダーがある。下手に口を開けない。だから、押し黙るしかない…。所謂、黙秘というやつだ…。
 そんな、重苦しい時間が、数分続き、深いため息を吐いたのは、篠崎だった。
 「お前さんが、正直に、洗い浚い、全て話してくれれば、こんな奥の手、使わずに済んだんだがな…。」
 そう言うと、誰かに電話を掛け始めた。
 「ここでは、何なので、一度、事務所に行きましょう。」
 宮間が男を促し、私たちは、事務所に戻った。

 篠崎と、藤吉は、カウンター前の、背の高い椅子に。宮間は、カウンター内、依頼人の男は、カウンター近くの肘掛けソファに、各々腰を下ろした。
 私はというと、普段、仕事用に使っている、部屋の隅の方にある、大きめの丸テーブルがセットで置かれている、ラウンジチェアに座った。ここが、この部屋の、お気に入りの場所だ…。照明の光が、届きにくく、少し薄暗い…。そして、このだだっ広い、事務所では、隅に居る方が、精神的にも落ち着く。だから、この場所が、好きだった。
 昔なら、こういう所に居れば、誰かしら、気味悪がったり、悪口を行ったりされたが、最近は、そんな事ない。私が、この部屋のどこに居ようが、誰も文句も言わない。だから、この空間も、好きだった。
 深く息を吐き、背もたれに、背を預け、天井を仰いだ。
 ほんの数秒とはいえ、首を絞められ、危うく窒息仕掛けた…。流石に、身体は疲れていた。
 「大丈夫か?」
 声を掛けられたと、気が付くのに、数秒を要してしまった。独りでいるときは、声を掛けられることが、少なかった為、慣れていなかった。だから、その声の主と、行先が判らなかった。
 私の隣の椅子に、座られ、漸く、彼の話し相手が、私なのだと、気が付いた…。
 「え?あ、うん…。」“慣れて居るから…。”そう言いそうになったが、何とか、途中で、留まれた…。
 「悪い、もっと早く、天木さんが、帰って来たと気付いていれば、こんなことには、ならなかったのにな…。」
 彼は、俯いたまま、呟く様に、そう言った。
 そんな、彼の優しさが、私には、毒にもなりえた。
 「自分を責めないで欲しい…。」
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