探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅩ:潜入捜査

#7

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 融通を利かせるも何も、私一人の判断で、嘘の報告をするなど、出来ない。依頼者に、頼まれたとはいえ、信頼を下げることなど、言語道断。社会人経験が、少ない私ですら、それくらいのことは、理解している。
 「で、ですから、そんな事、一平社員の私に、出来る筈ないじゃ、ないですか。」
 ひねり出すように、そう答えた。
 「相談なら、宮間か植月にでも、お願いします。」
 当時は、人数が、少なく、今の様な、“班”は無かった。そのため、代表である宮間と元探偵の植月が、依頼等を請け負っていた。
 だから、どの道、彼等に相談しない限り、証拠のでっち上げなど、出来ない。
 「まぁ、それしたところで、無理だろうけど…。」
 「そうか…。」
 男がそう呟くと、私の左腕を、力強くつかんだ。
 「ちょ、何するん…!」
 私は、驚き、振りほどこうとした。だが、それも、空しく、急に声が…息が出来なくなった。
 何せ、首を腕で抑えられたのだから…。完全に絞められては、居ない為、少しではあるが、呼吸はできる。だが苦しい…。
 「あまり、大きい声を出すな…。俺が何故お前に、こういった話を持ち掛けたか、分かるか?」
 「………。」
 彼から依頼された、浮気調査は、今日が最終日。結果は既に出ており、報告書をまとめ、週明けには、ちゃんとした、報告会と、なる…。
 それまでは、大それたことがない限り、依頼者への、中間報告は、今回の場合は、ない。だから、依頼者の彼が、今回の結果を、現状知っている筈がない。
 だが、彼は先ほど、『妻が、浮気をした”ってことに、してもらえませんか?』と、お願いしてきた。浮気をでっち上げて欲しいなら、最初から、こういうことを、何かのタイミングで、言う筈だ。
 だが、彼は、依頼日から、2週間ほどたった、調査最終日の“今日”このお願いをしに、ここに訪ねてきた。
 つまり、彼は、調査結果を、知っていた事になる…。だが、自分でいうのも何だが、私たちは、プロだ。依頼内容に、直接的に関係するような事は、外では、一度も口にしていない…。
 そして、私が事務所から、出てくるタイミングを、見計らったかの様に、私の前に、突然現れた…。
 これは、間違いなく、“尾行けられていた”ことになる…。
 探偵が、後を付けられるなど、笑えて来る様な気もするが…。
 「俺たちが、そんなヘマするかよ。」
 そう声が聞こえた瞬間、男は、真横に吹っ飛び、階段に、叩きつけられた。さっき、私が、やられた時よりも、数倍、痛そうだった。
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