探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅩ:潜入捜査

#5

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 「さっき、意気揚々と『今日は、俺がおごってやる』って、言っていましたよね⁈」
 私は、思わず声を荒らげた。小さい店内だったため、私の声は、店中に、こだました。幸い、時間は、14時を回っていた為、客は、私たち以外居らず、店員数名が、こちらを覗いた程度だった。
 「馬鹿!声がでけぇよ!」
 「そりゃ、大きくなりますよ!クレジットとか、電子マネーとか、持ってないんですか?」
 すると、植月は、ポケットから、長財布を取り出し、自慢げに中身を見せてきた。
 「俺は、現金しか、信用しねぇんだ。」
 カードを入れるスペースには、銀行のキャッシュカードと、コンビニでも使える、ポイントカードが、数枚ある程度だった。
 そして、肝心の現金は、紙幣は、千円札が、一枚だけ。他は、小銭が数百円程度…。
 「これだと、帰りの電車賃が、無くなっちまう…。」
 「この交通系ICカードが、一般化している世の中で、未だに、切符買って、仕事場や現場に赴いているのも、どうかと思うけど…。」
 「ちゃんと、事務所までの分の、定期は、買ってるぞ!」
 「それ、絶対元取れてないでしょ…。」
 私は、これ以上、何を言っても、駄目だと思い、最近買ったばかりの、リュックから、財布を取り出し、二千円、カウンターに叩きつけた。
 「お釣り計算するの、面倒なんで、後で、二千円、返して下さい。」
 「…恩に着る…。」
 植月は、申し訳なさそうに、二千円を受け取り、レジの方に、向かった。

 その後、私は事務所に、戻るため、帰宅する植月と、その場で別れた。
 事務所に戻ると言っても、現場に赴く前に、事務所に、置いてきた、私物を取りに行くためだ。
 事務所の扉を、開けると、学生服を着た、篠崎が、肘掛け椅子二つを繋げ、ベッドの様にして、横になっていた。
 私は、彼を起こさない様に、脇を通り過ぎ、カウンター上に広げられた、私の私用のスマホと、漫画本を数冊、リュックに仕舞った。
 いつもいる筈の、宮間は、何処かに出かけているのか、この時ばかりは、事務所内では、姿は、確認できない。要するに、この空間には、私と彼の、二人きり…。
 特別意識している訳では無いが、“異性”と二人きり、というのは、当時年頃の私にとっては、嫌でも、意識させられる…。
 先ほど、植月には、“好きな男性は、居ない”と答えたが。気になる、人なら一人いた。
 篠崎は、私の思っていた、“男性”と、大きく違った。何というか、彼と居ると、安心する。他人と一緒にいて、こんなにも、心に余裕ができるのは、久々だった。
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