探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅨ:人質事件

#14

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 「本堂副総理に、次男が居たのか?」
 店長が、驚いた様に、三島に問うた。無理もない、本堂宗久副総理の存在は、日本中が知って居る。彼の優秀な、長男や、長女、次女は、度々テレビなどで、姿を現している。
 だが、“次男”が居るとは、一度も聞いたことがない。俺自身、政治や警察の内部事情は、粗方知って居るつもりだったが、それに限っては、初耳だ。
 ましてや、世間から相当な支持を得ている、本堂宗久に、隠し子が居た。そんなこと、考える事すらしなかった。
 そこまでして、次男とは言え、世間に隠さなきゃならない理由は、ただ一つ…。

 「愛人か、何かとの、子どもか?」
 「流石だな…。愛人と言うか、キャバ嬢らしいがな…。
 そんなことはどうでも良い。問題だったのは、その事件を担当していた、刑事だ。犯人が、本堂の隠し子と知った瞬間、不利になり得る、決定的な証拠や、証言を隠滅し、捜査を少し遅らせた。
 その間に、父親の宗久に接触し、捕まった時の言い訳や、裁判で有利になる情報を、渡していた。
 その甲斐あってか、知らないが、誠人は、俺の前に、一度も顔を出さずに、裁判は終了。
 俺の女房の残りの人生と、腹の子の人生、全てが、たった、2億の金に変わった。
 幸せだった時期なら、2億なんて金、死ぬほど嬉しいだろうが、絶望と憎しみしかない、今の俺にとっては、2億なんて金、ただのはした金だ。」
 三島の、そう言ってのけた。奴の言葉からは、憎しみの感情は、確かに伝わって来るが、絶望の様な、吐き気を催すような、感覚は、伝わってこない。
 むしろ、どこか、吹っ切れた様な、清々しい感情すら伝わって来る。
 さっきもそうだった。“警察”と言う言葉には反応こそ、示していたものの、冷静で、身体にしみ込んだ、癖を使う余裕すらあった。
 人間に限らず、本能だけで、行動するならば、癖すら無視し、目的のためなら、最短な方法で、行動に移す。それが、『殺人鬼』や『愉快犯』と言った、凶悪犯罪だ。
 だが、今の三島には、他人を殺める様な、殺意は、少しも感じられない。殺意もなく、人質を取り、警察に挑発とも、取れる様な、行動を起こした。
 ならば、奴の目的は、ただ一つ。

 「自分の裁判で、全てを暴露しようってか、魂胆か?」
 刑事裁判は、世間の注目度が、高い。更に、“人質事件”と言う、平和ボケした国での、裁判は、非常に珍しく、メディアどころか、日本中が、注目するに違いない。
 そこでの発言力は、凄まじく、少しの失言が、世間の常識を、変えかねない…。
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