探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅨ:人質事件

#9

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 榎本真紀…。嵐の様な人だった…。私の前に現れた時間は、わずか一分程。資料を届けに来ただけでなく、私の眠気と疲労を、取り除いてくれた。
 それを感じたのは、私だけではなく、私の近くにいた、他の刑事たちも同様だった。
 「な、何なんですか?今の人?まるでゲームの“ヒーラー”みたいな人…。」
 「例え方が、的確ですね…。」日下部さんが、感心した様に答えた。
 「榎本真紀…。俺の班のメンバーで、ホームズ専属の医者で、『“裏”ラストホームズ』の一角。
 元法医学者でもあり、薬品のエキスパート。今は、都内のビルで、内科医やってる…。」
 法医学…。法律にかかわる問題で、医学的判断が必要な場合、鑑定や研究、解明をする仕事だ。主に、司法解剖や血液鑑定などが、多いだろう…。
 私たち警察も、何かとお世話になる事が多い。
 そんな仕事を、彼女は辞め、小さな町医者の様な事をしている…。
 それが、謎だ…。法医学者なら、次から次へと仕事が舞い込んでくる。その分、謝礼や、報酬も多い筈だ…。
 「どうして、法医学者、辞めちゃったんですか?」
 「それは、本人に直接聞いた方が良いよ。」京子さんが、資料に目を通しながら、口を開いた。
 「正直私たちもよく知らないの…。何せ、ホームズを設立する、ずっと前から、ザキさんと知り合いだったらしいから…。」
 ホームズは、今から8年ほど前に、彼等の言う『ザッキーさん』と宮間さんが二人で設立したと聞いた。そこに、天木さんを含めて、三人からスタートさせたと思っていた。
 そのずっと前から、ザッキーさんと真紀さんと接点があり、その繋がりで、ホームズに在籍しているとすれば、何かしら、深い訳がありそうだ…。

 「それより、これ。」
 京子さんが、真紀さんに受け取った資料を、パンと叩き、話を戻した。
 「何か分かったんですか?」 
 「一つ気になった組織があります。」
 そう言うと、資料の一ページ開き、その場に居る、みんなに見せた。
 そこには、とあるマフィアの詳細が書かれていた。
 組織の名前は…。
 「クラブ・ジョーカー。ここ数か月で、勢力が、異様に跳ね上がっている所ですね。」
 「流石、リューさん。そう、日本のヤーさんたちも、最近目を光らせてる、裏社会の組織、『クラブ・ジョーカー』。
 この人たちのことを、少し調べて貰いたい。」
 私は、裏社会の事に関しては、殆ど無知だ。名前くらいは、耳にしたことはあるが、そこがどういう組織なのかは、分からない。
 何せ、こういった暴力団関係の捜査は、主に、組織犯罪対策課が行う為、情報が回ってこない…。
 まして、一課に異動になってから日が浅い私にとっては、尚更だ…。
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