探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅨ:人質事件

#4

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 『どうも、警察の諸君、大分手こずっているようですが、大丈夫ですか?』
 無線に繋がっている、イヤホンから、相沢さんの少し小ばかにした様な声が、響いた。
 言葉からして、この場にいる全員にその声が届いているらしい。
 「だ、誰だ!」
 梅木警部が、叫んだ。
 『人質犯一人に手古摺っている、優秀な刑事様たちに、名乗る程の男ではありません。
 犯人の名前と素性が、分かったので、データを転送しました。」
 その言葉と同時に、パソコンの画面に、男の顔写真付きの、データが表示された。
 名前は、三嶋寛之。年齢は36歳。住所は、東京の端の方。
 それだけでなく、職場や連絡先、経歴などの個人情報までもが、細かく記載されている。
 これでは、まるで…。
 「警察の調書に似てますね…。」
 「“似てる”じゃねぇ、そのままだ!」
 梅木警部が怒鳴った。
 「おい!警察の情報漏れてんじゃねぇか!」
 近くにいた、技術担当の男性刑事を引っ叩いた。
 まぁ、相沢さんは、元科警研の研究員だった訳だから、警察のサーバーにアクセスするなど、文字通り、朝飯前なのだろう…。
 それを言うと、更に梅木警部の機嫌を損ねかねないので、黙っていることにした。
 それにしても…。
 「どうやって、この人だって、割り当てたんでしょう…。」
 警視庁のサーバーに侵入できたからとは言え、膨大なデータの中から、たった一人の調書ファイルを探し出すなど、不可能に近い…。
 『あまり答えたくないが、工藤さんの質問となら、仕方ないか…。』
 深いため息が聞こえた後、渋々ながら答えた。
 『指紋だよ。指紋を照合させて、ピンポイントで、検索掛けただけ。
 刑事さんたちも、よくやるでしょう。』
 確かに、指紋を照合できれば、簡単だ。
 しかし…。
 「ど、どうやって、指紋を入手できたんですか?」
 指紋というのは、この世に、二つとして存在しない、自分を自分と証明させるための、紋章だ…。
 それさえ、分かれば、過去に登録した物の中から照合して、簡単に、前科や調書を調べられる。
 だが、その指紋を手に入れるまでが、問題だ。
 警察でさえ、色んな方法を用いて、入手する。時には、不正な方法を使ってでも…。
 それなのに、彼等は、この短時間で、現行犯の指紋を、確実に入手した…。
 「それは、私から説明しますね。」
 大竹さんが、そう言うと、スマホを一台、梅木警部に投げてよこした。
 「梅木さん、スマホ着けて中身見て下さい。」
 梅木警部は、ぶつくさ言いながら、言われるがまま、スマホを付けた。
 しかし、画面はロックがかかっており、それ以上は、進めない…。
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