探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅨ:人質事件

#2

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 「お前、妙に冷静だな…。」
 男は、低く唸るような声で、そう呟いた。
 「この状態で、怯えもせず、そう話せる人間は、そうそういねぇだろ…。何者だ…。」
 銃口を、俺に向けながら、訊ねてきた。
 「ただの、営業マンだ…。どんな時も冷静に話せなければ、仕事にならんからなぁ…。」
 俺がよく使う、言い訳をした。大まかではあるが、嘘は言っていない為、辻褄も合わせやすく、不審に思われることも、ない…。
 だが、今回に至っては、少し微妙だったか…。
 「営業マン?職業病ってのは、人間の本性その物すら変えられる物か?」
 この男、意外と鋭い。
 「それは、人の性格に寄るんじゃねぇか?俺みたいに、元々冷静な性格の様な人間は、心情を隠すことも、得意なのかもな…。」
 男は、イマイチ納得していない様だったが、話を変えられる前に、もとに戻す。
 「それで?俺たちを人質にして、警察と報道陣を集めて、何が目的なんだ?」
 他の客たちも、息を飲み、俺と男の話に、耳を傾けだした。
 「このまま、立て籠もっていたとしても、何かアクションを起こしたとしても、警察は、突入してくることは、変わりは無い。
 幾ら俺たちに危害は加えないと、言ったとはいえ、理不尽にこのままの状態じゃぁ、俺たちも納得いかねぇ…。」
 「…。」
 男は、暫く黙り込んだ後、近くにあった、コンテナの上に腰を下ろし、話し始めた。
 「3年前、俺の女房は、ある男の手によって、殺された。腹の中には、俺との子が居たが、当然その子も死んでしまった…。
 犯人の男は、当時未成年だったこともあって、少年法でそれ程大事にもならず、大した罰もなく、裁判は終わった。
 俺の女房と子どもは、金に変わっただけ…。俺の精神や、感情など、ないに等しいものだった…。」
 ぽつぽつと話し始めた、内容は思った以上に、酷かった。男から伝わる感情からして、嘘ではなさそうだ…。
 刑事ドラマなどで聞く様な内容なのだが、実際に聞くとなると、言葉に詰まる…。
 客の一人の女子大生も「酷い」と声を漏らしていた…。
 「お前らに恨みはない…。あるのは、その男への憎しみと、警察に対する恨みだけ…。」
 「ど、どうして、ウチのコンビニなんだ?」
 店長は聞き返した。
 だが、その答えは、俺が答えた。
 「このコンビニの位置こそが、その事件があった、場所だから…。だろ?」
 「…。」
 男は少し驚いた様に、目を見開いたが、再度、話し始めた。
 「そうだ…。丁度三年前の、今日、その事件は、起きた。
 当時、このコンビニは、まだできていないから、知らなくても当然だ…。」

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