探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅧ:二つの事件

#12

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 「と言いますと…。」
 笹野次長のまさかの発言に、その場に居た刑事たちは、耳を疑った。私も、その内の一人だ。
 警察のナンバー2である、笹野次長が、一民間調査会社に、応援を仰いでいる。
 警察の面目としては、丸つぶれだ。それほどまでに、彼等に期待しなければならない、事件とは一体…。
 『そのままの意味だよ、梅木君。今回は、別件も絡んでいる。本来ならば、そちらに彼等を、要請したいのだが、そうはいかない。
 人命を最優先なのは、君たちも一緒だろうが、この場合、彼等の動きの方が、我々より、統率が取れている。
 そうは、思わんかね?工藤綾音巡査長殿?』
 「…へ⁉」
 急に名指しされれば、認識していても、それが自分の事だとは、思えない。
 ましてや、次長直々からの言葉だと、重みも感じ方も、全然違う…。
 そのため、久々に、間の抜けた変な、声が出てしまった。
 それ程、今の自分の意識に、余裕がなかった…。
 「え、えっと…。」
 私は、梅木警部と日下部さんの顔を見ながら、言葉を探した。
 梅木警部は、少々苛立った様な顔つきをしている。
 日下部さんは…何というか、いつも通りだった。
 「さ、笹野次長の、仰る通りだと思います…。今の我々と、彼等では、心の置き方が違うと…思います…。」
 そう、率直な感想を述べた。梅木警部の顔つきが、更に険しくなったが、なるべく、気が付かない様にした。
 『なるほど…。君は、私たち警察が、彼等に劣っていると見えるか…。』
 電話越しで、深いため息が聞こえた。
 「そ、そういう意味ではなくてですね!えっと、現状の話をしているだけであって、警察全部の話をしている訳では!」
 中身のない言葉を並べ、何とか言い訳を、作り上げた。だが、私の発言で、警察全土を敵に回したことには、変わりはない…。
 完全にやってしまった…。
 その時だった。電話の向こうから、聞き馴染みのある笑い声が響いてきた。
 『アマキちゃん、もっと声抑えて、向こうに聞こえちゃうでしょ!』
 その笑い声を、遮るように、もう一つ、女性の声が聞こえる…。
 『やはり君は面白いな。工藤巡査部長。』
 笹野次長は、先ほどの重苦しい声とは、全く別な、優しそうな声で、笑った。
 それより…。
 「天木さん!聞いてたんですか⁈」
 『ゴメン、クドー。まさか、そんなに真面目に答えるとは、思わなくて、つい…。』
 『何が、“つい”よ、最初っから笑いっぱなしだったくせに…。』
 柏木さんも、彼女の口調を真似て、電話越しで、呆れていた。
 『まぁ、ここまで身内に言われてしまっては、面目なんて物、気にする必要はなくなりましたね。
 だが、工藤巡査部長が言った言葉は、そのままです。お互いピリピリし合ったって、意味はない…。
 ここは、少しでも、事件解決に近いであろう、彼等に任せてみるのは、どうかな?梅木君?』
 笹野次長が、梅木警部だけではなく、その場に居た、刑事たちにも問いただした。
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