探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅦ:工藤刑事の報告書

#4

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 吃逆と言うのは、突然やって来るものだ。だが、彼女のそれは、あまりにも唐突過ぎた。
 「天木さん…?」
 あまりにも不自然だった為、そう呼びかけた。
 だが、帰って来た返答で、その不自然さが、決定的な物へと変わった…。
 「らぁにぃ~クドーしゃん。」
 舌足らずで喋り出したその雰囲気は、まぎれもなく、酔っ払いのそれだった…。
 「まさか…。」
 宮間さんが何か閃いた様に呟き、天木さんが頬張った、チョコレートの包装紙と、同梱されていた、商品紹介の紙を見比べた。
 そして、合点がいったのか、『やっぱり!』と声を荒げ、水を用意し始めた。
 しかし、当の本人は、それを受け取らず、よたよたと、柏木さんの座る席まで歩きだしていた。
 そして…。

 「カエデしゃ~ん。」
 そう唸りながら、彼女の胸の中に飛び込んで行った。
 「ちょ、アマキちゃん、まだ昼間なんだけど!」
 そう言う問題なのかは、さておき…。
 珍しく、あの柏木さんが、困っている…。そして、天木さんのあの様子はまさか…。
 「本当に酔っているんですか?」
 私の質問に対し、宮間さんが力なく頷いた。
 「はい…。アマキちゃんは凄く酔いやすい体質でして…。
 それだけならまだしも、アマキちゃんは幼い頃から、他人に甘えられなかった分、酔うと、甘えたい欲求が抑えられなくなるらしいです…。」
 柏木さんに抱き着き、頬擦りしているのが、多分、彼女なりの甘え方なのだろう…。
 「ほら、アマキちゃん、お水ですよ。」
 宮間さんがそう、天木さんに話しかけたが、そっぽを向くばかりで、相手にされていない…。
 「良いじゃないですか。微笑ましくて…。」
 「これだけなら、まだいいんですが…。」
 宮間さんが、そう言いかけた瞬間、今度は彼に抱き着き始めた。
 「アマキちゃんの甘えたい欲求は、無差別級なので、少しマズいんですよ…。前、居酒屋行ったときなんかは、隣の男性客の腕組み始めて、引き剥がすの大変だったんですよ…。
 幸い、理解ある方だったので、大事にはなりませんでしたが…。」
 確かに、それは危険だ…。ただでさえ、こんな見た目なのだ、危ない人に連れまわされたり、最悪のケーズもあり得る。

 「クドーしゃん…。」
 「へ?」
 気が付いた時には、遅かった…。お酒の匂いはしないものの、頬を赤らめ、上目遣いで顔を覗かれたら、堪ったもんじゃない…。
 同性である私ですら、この状況に危機感を覚える…。
 「あ、天木さん!と、取り敢えず、水飲みましょう、水!」
 「要りましぇんよ~。」
 その時、最悪な事に、ホームズの扉が開いた…。
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