探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅦ:工藤刑事の報告書

#3

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 食事を終え、紅茶を頂く為、ホームズに戻った。
 看板に明かりは点いていなかったものの、中では、土屋さんと柏木さんが、各々寛いでいた。
 柏木さんは、カウンター席で、スマホを弄っていた。
 土屋さんは、ソファで両足を放り投げ、アイマスクをし、眠っている…。
 「あれ?二人でデートしてたの?」
 「してませんよ!」
 私は、声を荒げた。だが、土屋さんは、起きる気配はない…。
 「それより、聞いて下さいよ…。」
 「クドーが捜一に異動になったって話?」
 私が話す前に、彼女には既に情報が回っている様だった…。思わず、宮間さんを睨み付けたが、首を横に振られた。
 「クドーさんは気が付かなかったかもしれませんが、さっきの店に、彼女も居ました。」
 「え?」
 「聞くつもりは無かったんだけど、嫌でも聞こえちゃって。」
 舌を出し、少し小ばかにした様に言ってきた。この申し訳なさゼロの顔を、私に向けられる時が来るとは、思っても居なかった。
 「それより、その紙袋何?」
 柏木さんが指さしたのは、私が持っていた、物だった。
 「あぁ、異動祝いに上司からもらったものです。」
 帰り際、比較的仲が良かった、女性上司に渡されたものだった。中身こそ、まだ分からないが、どうやら、菓子類の様だ。
 「良かったらどうですか?一人では、食べきれないので。」
 そう言い、紙袋ごと宮間さんに渡した。
 「モイズじゃないですか。」
 紙袋から箱を取り出した、宮間さんが真っ先に声を上げた。
 「知っているんですか?」
 「フランスのチョコレートブランドですよ。知人が、昔、修行していました。」
 チョコレートなら、天木さんとか喜んでくれそうで、ほっとした。
 「これで茶菓子は何とかなりそうですね。」
 
 紅茶を淹れてもらい、世間話をしている最中、天木さんが戻ってきた。
 「いや~、パソコン調子悪くて、修理出してたの、すっかり忘れてたよ。」
 そう言いながら、とことこと、カウンターの傍までやってきた。
 「美味しそうなもの、食べてるじゃん。」
 「クドーさんの異動祝いですって。」
 「異動…。」
 すると、天木さんは、急に哀れんだような表情を見せた。
 「クドー…何悪いことしたの?」
 「違いますから!ただの、人事異動です。しかも、捜一。」
 「ふ~ん。それより、食べて良いの?」
 興味ゼロ…。どうして、この人たちは、ゼロという数値が好きなのだろうか…。
 「じゃぁ、ミヤマ、コーヒー。」
 そう言うと、私の隣に腰を下ろし、チョコを一粒、頬張った。
 「あれ、ココアじゃないんですか?」
 「最近、ダイエットしてるらしいよ。砂糖とミルクは、まだ必須らしいから、意味あるかどうかは、分からないけど…。」
 柏木さんがそう答えた直後、事件は起こった…。
 ヒック。
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