探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅥ:詐欺捜査

#21

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 「リューさん、そいつですかい?私のシマで、詐欺紛いなことしてるって男は。」
 強面の男の一人が日下部さんに向かってそう訊ねた。
 口調こそは優しいのだが、表情は決して和やかではない…。
 日下部さんが頷いた後、園部の前にしゃがみ込み、胸倉を強引に掴み、顔を上げさせた。
 「困るよ兄ちゃん、お陰でリューさんにあらぬ疑い掛けられちまって、ウチの面目危うく潰れる所だったぞ…。」
 「お、お宅らは?」
 園部が怯えた様なか細い声で、強面の男に聞いた。
 「私はここら一帯を仕切ってる、『燐宗会』の頭や。この落とし前、どうつけるつもりや?」
 先ほどまでの優しい口調から、少しドスの掛かった低い声に変った。
 「真田さん。」
 少し困惑している私に対して、京子さんが声を掛けてきた。
 「現在彼は、定職には就いておらず、持ち逃げした分を返せる程の経済力はありません。
 更に、入院している智実さんにも話を伺いましたが、「もう関わりたくない」そう言っていたらしいです。
 でも、この男を野放しにしていたら、社会的によくありません。
 ですので、彼らに身柄を預けたいと思いますが、よろしいですか?」
 そこまでしてほしい訳では無かった。ただ、シュン君と智実さんに謝ってほしい。それだけだ。
 だが、智実さん自身がそれを望んでは居なかった。ずっと、「騙された自分が悪い」「あの子が死んだ理由には関係ない」として、男の事は、考えたくない様だった…。
 「よろしくお願いします。」
 私は、深々と頭を下げた。
 すると、園部は強面の男たちに引き摺られ、車の中に放り込まれ、そのまま走り去っていった。
 園部が今後、どうなるかは分からない、だが、私の中で一つ、肩の荷が降りた気がした。
 これで、解決したというわけではないが、彼らに頼んでよかったと思った…。
 「ありがとうございました。何から何まで調べた下さり、感謝してもしきれないほどです…。
 依頼料は私が何とかして払います。」
 幾らするか分らないが、家にある楽器を一台売れば、何とかなる筈だ。
 「次の日曜、暇ですか?」
 「へ?」
 笹井さんが、そう訊ねてきた。
 「一応、はい…。」
 「じゃぁ、依頼料の事は、その時話します。それまで、お金のことは、心配しないでいてください。」
 そう言い残すと、彼らは公園を後にした。
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